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パリ 25ans better than chocolate

16 juillet , 6pm

私は軽い膀胱炎にかかったようで、微熱が続き、1時間おきにトイレにいきたくなって、体がだるく一日寝ていた。

夕方Yuanから電話があった。「リコ、大丈夫?これから野外コンサートに行くんだけど、一緒にいかないかなとおもって」「ちょっと熱があるからやめとく」「今からそっちにいこうか?」「大丈夫よ」「ほんとに?」「大丈夫、寝てれば治る」「ほんとにほんと?」「だ、大丈夫」「わかった、じゃあまたね」受話器を置いて、数日前に知り合った人にこんな風に心配されるのが不思議だった。部屋には彼の上着がかけてある。メルゲーズの匂いのする私のではない大きなジャケット。新しいなにかがはじまる予感に包まれて深い眠りに落ちた。

18 juillet, 7 pm

3日たって熱は下がり、トイレにいきたくなる回数も減ってきていた。夕方Yuanから電話があり、レアールにあるForum des imagesという映画施設で面白い映画をやっているから見に行かない?と誘われた。19時にレアールのショッピングモールにあるFNACで待ち合わせた。FNACは書籍から音楽関連、家電コーナーまであって、ちゃんと会えるか不安になったが、ちょうど入口のところでDVDをみていた背が高く、髪を後ろでくくって、めがねをかけた彼を見つけた。「Yuan」と腕をつついたら、「リコ!体調どう?」「もう大丈夫、ありがとう」「よかった」とにっこり笑ってビズをした。「あ」「どうしたの?」「めがねが直ってる」「うん、新しいのに代えた」彼はちょっと恥ずかしそうにそういった。「映画もうすぐ始まるから行こう」

ショッピングモールの奥にあるForum des imagesは、シネプレックスというより、ドキュメンタリーやさまざまなテーマに沿った映画が上映されたり小さなフェスティバルや講演があったり、映画を学ぶ学生やCine file向けの施設。今日は、入口からすごい人だかりで、何かの映画祭をしているようだった。Yuanはすでにチケットを買っておいてくれていたのですんなり入れたが、100席くらいの会場はほとんど満席だった。「何を見るの?」「Better than chocolate」と映画の半券をくれた。席がちょうど真ん中あたりで、人の足をまたいで謝りながら座るとすぐに照明が落とされ、何の説明もなく映画が始まった。

英語の映画で、字幕がフランス語だった。カナダの映画のようで、早口でスラングだらけの英語はほとんどわからない。字幕を追うと画面をほとんど見れず、話の流れがわからなくなる。主人公はマギーという本屋で働く女の子。彼女はショートカットのかっこいい女の子キムと出会う。どうやらレズビアンのカップルの話で、途中からお母さんが転がり込んできて、キムとの関係がばれないようにしたり、血のつながらない弟が出てきたり、いろんなハプニングが起こって、家族がレズビアンの彼女を受け入れていく話みたいだった。社会的にも成功し裕福に暮らしていたお母さんは、再婚相手の暴力に悩まされていて、チョコレートを食べることだけが人生の楽しみと思っていたのに、マギーとキムの関係を許せるようになって、チョコレートよりいいことがあると気づく。
映画が終わると大きな拍手が起こった。
Yuanは会場に知り合いがいるかもしれないと、みなが席を立ち始めてもその場できょろきょろしていた。ふと、斜め後ろの席でキムによく似た金髪のショートカットの女性が隣の女の子と長いキスをしているのに気づいた。それは映画のシーンみたいに美しく、官能的だった。Yuanと目が合うと、彼は私を引き寄せ、キスをした。

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