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パリ 25ans 15 juillet

15 juillet,  6 am, Chatelet- Boulevard de Sebastopol,

Yuanに支えられながら、なんとか階段を上り、ポンヌフ橋からシャトレに向かって歩いた。途中公衆トイレがあったが、朝早いからか扉が開かない。道路には大きな清掃車が止まり、緑色の制服を着た清掃員が、昨日の祭りの後の大量のごみをホースで流していた。「もうだめかも・・」水の音を聞いたら力が入らなくなってきた。「あ、今人がいたから聞いてくる。ちょっとここで待ってて」Yuanは工事中の建物に搬入している作業員のところへ走っていった。しばらくして、戸口に出てきてこちらに手を振った。「リコ!こっちに来て!」なんとか建物に向かうと、ニコリともしないおじさんが通してくれて、Yuanに手を引かれて中に入った。壁だけを残して内側はほとんど取り壊され、足場がたくさん組まれていて、木材やペンキの缶をよけながら、奥に進むと、ビニールのカーテンで仕切られた場所まできた。「ここトイレ。使っていいって。」カーテンを開けると、二枚の板切れがかつてトイレがあったであろう穴に渡してあるだけだった。一瞬うっとなったが、背に腹はかえられない。「大丈夫?」「大丈夫、あ、あっちむいてて!」彼はかばんの中からティッシュを取り出して手渡してくれた。

「ありがとうございました」二人でおじさんに頭を下げて建物を出た。「Yuanありがとう」「気分はどう?」「おなか痛いのはおさまったけど、ちょっと気持ち悪くて・・・どこかに座りたい」シャトレ駅の近くでサンジャックの塔が見えていたが、7時前だからか開いているカフェはなさそうだった。「ここから5分くらい歩いたら僕のうちなんだけど、そこまで歩ける?」私がうなずくと、彼はにっこりして、よろよろ歩く私にかなりゆっくりと合わせて歩いてくれた。

リボリ通りの開店準備をしている店を通り過ぎ、セバストポール大通りに出た。レアールの方へ歩き最初にYuanと待ち合わせたカフェの近くまできた。彼は大きな臙脂色の扉の横のデジコードを押して通用口から入った。ひんやりとした石畳の細い通路の両側にさらに扉があり、左側の扉のデジコードを押し開けると、古めかしい絨毯の螺旋階段がずっと上まで続いていた。彼のあとを黙ってぐるぐると上っていたが、180センチ以上ある人の歩幅についていけず、息切れしながら一番上の階まで来た。彼は扉の前に荷物を置くと、鍵だけもっておもむろに廊下のガラス戸を開けて外に出た。屋根の上に小さな窓が並んだ屋根裏部屋が見えた。灰色の屋根の上の踊り場のようなところにある細長い扉を鍵で開けると、素焼きのタイル張りの階段があらわれた。ところどころ割れたタイルをカタカタいわせながら上り、奥に進み、彼は三つ目の扉の鍵を開けた。斜めの天井の小さな窓から、朝の光が差し込んでいた。4畳半くらいの部屋に一面やわらかいデュベがひいてあり、オーディオセットと大きなクッションがあった。「うちは下の部屋なんだけど、母と住んでいてまだ朝が早いから。ちょっとここで待ってて、お茶入れてくるから」「あ、手を洗える?」「階段のすぐ横がトイレだから使って」Yuanはにこっと笑うと、するっと扉から出て行った。

なぜこんなところまできてしまったんだろう・・・お腹が痛いのと気持ち悪いのが交互にやってきて、立ち上がった。小さな天窓から外を見ると、煙突やアンテナが並びその向こうにポンピドゥーセンターの赤と青のダクトが見えた。そっと扉を開けタイルを歩き、トイレの扉を開けると、思ったより新しくきれいで、トイレットペーパーもちゃんとあってほっとした。手を洗うところの上に、「きれいに使いましょう」というメモが貼ってあった。



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