見出し画像

【AI頻出質問第3位】内製と外注、どっちがいいの? に対するシンプルな回答

こんにちは。AI MIRAIの児玉です。

このnoteもすっかりご無沙汰ですが、AIのビジネス活用について、ここしばらくで感じたことをコラム的にぽつぽつ書いていきたいと思います。

今日はAI界隈でよく聞かれる質問

「外注と内製、どっちがいいの? 我が社はどっちを目指すべきなの?」

に対する、私たちなりの結論をお話しします。


この記事はどんな人向け?

大企業の中で、AI活用を推進していきたい(推進すべき立場にある)皆様。

特に、十分にAIに関する人材や知見が社内になく、プロジェクトの体制の作り方で悩んでいる方。


内製 or 外注、という大きな分岐点

大企業におけるAI・DX推進をされている方とお話しすると、よくこういう質問や相談をいただきます。

「外注(協業)と内製、わが社はどっちを目指すべきですかね?」

「内製しようにも人材がいなくて……育成すべきでしょうか」

「都度都度、最適な発注先に外注したほうがスピード・クオリティともに高いのでは?」

「外注」と「内製」の比較は、AIの相談をいただく中でもっともよく聞かれる質問第3位です(自社調べ)。

確かに、世の中には多数の優秀なAIベンダーはいますし、すでに実績のあるAIソリューションも多い。いまだに新規サービスのニュースリリースは毎日何かしらあります。

一方で同じくらい、AI人材育成のプログラムや組織コンサルプログラムも増えてきました。DX人材の育成、もすっかりバズワード化しています。

さまざまな企業とお付き合いをし、最適な発注先を使い分けるがよいのか、はたまた内製化を進め、ある程度は社内でAIを開発できるように人材を育成したほうがいいのか……

迷うのも必然です。

まずは頭の整理のため、それぞれの良しあしを比較しましょう。

画像2

もちろん様々なご意見あると思いますが、ざっくりこんな感じでしょうか。

一長一短ですね。

どことなく、賃貸VS持ち家論争、にも似た雰囲気を感じます。

そして次に、この比較表は忘れてください。

もう一度言います。

忘れてください。

画像2

自分で書いておいてなんですが、この表は本質的ではありません。

(ちなみに界隈で使われがちな「協業」ってなんでしょうね。私はいまだに「協業」と「外注」の違いを理解できていません。それってただの外注じゃん!という「自称協業案件」も多い気がします……が、これ以上はやめておきます)

本題に入る前に、私たちAI MIRAIの状況だけ簡単にお話しします。


内製化を進めてきた電通グループのAI

私たち電通グループは、2018年に、データアーティスト社というAIスタートアップを買収しました。

いや、買収、というと極めておこがましい。頭を下げてジョインしていただいた、というほうが正しいですね。

データアーティスト社は、今ではモンゴル・ウランバートルに開発拠点を持ち、東京の本社とあわせて数十人のデータサイエンティスト・AIエンジニアが集う、一大AI開発拠点となっています。

加えて電通グループには、ISIDというSIerがあります。

ここには「AIトランスフォーメーションセンター」というAIに特化したチームがあり、コンサルから開発までを一気通貫できる数十人のメンバーが所属しています。

他にも、電通デジタルや、電通グループの他の企業・部署にも開発できるメンバーが多数います。

これらのチームにより、電通グループにおけるAI活用は、体感的に8割ほどを内製化しています。もちろんアノテーションやフロントエンド等、作業レベルでは外部パートナーにお願いしている部分も多いですが、AIのコアとなるアルゴリズムにおいてはグループ内のメンバーで開発しているケースがほとんどです。

内製率をここ数年で大きく引き上げた経験からすると、冒頭の質問「外注or内製」について、結論は以下です。


シンプルな答え

画像3

最終的には、できるだけ内製できるようになったほうがよい。

というのが私たちなりの結論です。

この結論にたどり着いた理由、私たちなりに見つけてきた内製化の持つ本当のメリットを、3点お伝えします。

いずれも先ほどの比較表にはありません。


①外注力も高まる

内製すべしとか言っておきながら、いきなり何だよ? かもしれませんが、本当です。AIを内製するだけの力量があることで、外部パートナーへのディレクション力、プロマネ力、そしてプロジェクト成功率が高まります。めちゃくちゃ高まります。

これには二つ理由があって、

ひとつは技術や精度に関する客観的なレビューができる。外部パートナーへの指示が具体的になったり、提出されてくるレポートに対して的確な指摘や追加の依頼をすることができます。

もうひとつは緊張感。「私たちAIについては素人なので全部お任せします!」という、いわゆる「丸投げ」と比較して、緊張感をもってプロジェクトが進められるという感覚があります。

内部の人材と外部のパートナーが競い合い、学びあうことで、プロジェクト全体が緊張感をもって進み、結果としてよいアウトプットができる。というのが私たちの感覚です。


②水平展開の可能性が増す

AIの活用がうまくいき、業務を自動化し、効率化が達成できたとします。あるいはよりよい顧客サービスができたとします。それがニュースで取り上げられたり、他社から問い合わせがあったとしましょう。

それを外部に売りに行きやすい、というのがメリットの二つ目です。

AI業界だと、飲食店向けソリューションを水平展開しているEBILABさんが有名でしょうか。

最近ではYahooさんがコメント内容評価AIを外販していたり、

今年の例ですと、朝日新聞さんが、自社で開発した自動要約AIをAPIとして外部解放していたりします(現状無償ではありますが、当然その先のビジネス化も睨んでいると推察します)。

電通グループのデータアーティスト社も、電通向けに開発したAI教育のプログラムをパッケージ化し、外販しています。

もちろん、外部パートナーとの発注・協業案件であっても、外部へサービス提供していくことは可能でしょう。

ただその場合、権利の帰属や、レベニューシェアなどのビジネス上の建付けが必要になってきます。当然、シェアするとレベニューは減ります。加えて、リード管理や提供体制など、こまごましたところで企業をまたいだ利害調整が必要になってきます。

「最新のテクノロジーを持ったベンダー」と一緒に「共同ソリューションを開発」し「新規事業として展開」! とはキラキラして聞こえがいいですが、新規事業であれば当然自社内で完結したほうがはるかに動きやすいに決まっています。

新しい事業のチャンスを切り開くのにも、内製化は大きく貢献すると言えるでしょう。


③蓄積効果が出る

そして最後にして最大の効果は「蓄積効果」です。

先ほどの比較表のように(お忘れかと思いますが)、ひとつの案件だけ切り取ってみると、内製と外注は一長一短と言えます。

しかし、長きにわたり多くの案件にトライしていく前提であれば、話はまったく別。内製を含めた特定のチームに開発を集中させていくことにより、挑戦すればするほど、次の挑戦がやりやすくなる。これが蓄積効果です。

具体的な蓄積の効果を三つほどご紹介します。

ひとつめはドメイン知識・肌感覚の蓄積。

実際にAIにトライした方なら身に覚えがあると思いますが、特にビジネス現場での活用を考えた場合、ドメイン知識や「肌感覚」は非常に重要です。

仮に開発を内製化すれば、毎回新しいベンダーに「当社は……この業界は……」を説明する必要がありません。独自の用語や計算方法を伝授する必要もありません。加えて商習慣などの言語化されにくい「勘所」をおさえた開発ができるようになります。

次は組み合わせによる競争優位の構築

例えば、マーケティングで活用しているAIによる需要予測モデルを、パッケージデザインAIなどの商品企画に反映させていくとします。

これら二つのプロジェクトが別のベンダーの場合と、いずれも内製だった場合をイメージしてみてください。

まったく進めやすさが変わってくるはずです。

できるだけ内製、せめて同じベンダーであることで、「ある事業で使っているAIやデータを、ほかの事業に転用したり、掛け合わせたりする」が劇的にやりやすくなります。

最後に、失敗を失敗にしない。

これが一番重要です。

AI活用を進めるにつれ、失敗事例も増えてくることでしょう。AI MIRAIではプロジェクトごとに成功の度合いを判定していますが、約40%のプロジェクトは失敗しているようです。(2021年5月時点。記事よりなんか増えてる……)

ところが、失敗したはずのプロジェクトは、思わぬ形で再利用されることも多いのです。

新たな課題が出てきたときに、「そういえばあの時のAIが使えるな」とか「このドメインに強いメンバーが、そういえばいたな」とか、そういった形でいくつかの過去のプロジェクトを復活させてきました。

当然ですがそのほうが初速ははるかに早く、安くなります。

内製化により、開発したAI・人材・開発環境・ノウハウ、さまざまなものが蓄積していくことで、次のアクションがとりやすくなるのです。プロジェクトが続けば続くほど、この効果は顕著です。

一方で、いちいち最適な外部パートナーを選定していると、失敗したらそれきり。むしろ失敗したベンダーには「ミソ」がつき、に再発注しにくくなる可能性すらもありえます。

できるかぎり内製に近づけていくことで失敗は失敗でなく、組織の学習のプロセスになっていくのです。


じゃあ外注ってしないほうがいいの?

もちろんすべての企業がAIのすべてを内製化できるわけではないですし、当然ながら外注なり協業なり、外部の力を借りてプロジェクトを進めることも多いでしょう。

しかし、「最終的に内製を視野にいれているかどうか」で、外注のアプローチも大きく変わってくるはずです。

✓パートナー選びは何を基準にする?
✓どのような社内の体制を組む?
✓どこまでを発注し、どこまでを自社で対応する?
✓このプロジェクトを通して、自社は何を学ぶ? 

やや抽象的ですが、「いずれは自分たちでやるんだ……!」という想いのもとで外注や協業を進め、一つのプロジェクトからの学びを最大化する、というのが大きなポイントになるでしょう。

複数のプロジェクトを繰り返していくうちに、漫然と様々なベンダーを「つまみ食い」しているだけの企業と、自分たちに意識的にノウハウを溜めていた企業との間には、大きな差ができるはずです。


まとめ

一つ一つのプロジェクトを切り出して考えると、確かに外注、内製それぞれのメリットはあります。

しかし、見てきたように、今後さまざまなAIを継続的に作っていき、それを自社の競争優位にするのだ!となれば、ゴールは圧倒的に内製です。

逆に「最適なベンダーに」「まるっとお願い」を各所で繰り返し、気づいたら社内には何も残ってない……!という状況は絶対に避けるべきです。

幸いにして、ノーコードツールの発展や、AI教育の価格破壊もあり、内製化が非常にしやすくなってきました。

ここ数年で、AIは圧倒的に「普通の企業活動」になっています。どのような業界・規模の企業であっても、AIを作り、育て、使い続けていくことから、逃れることはできません。

だとしたら、いかに自社内にノウハウ・ケーパビリティを蓄積していくか。

いかに、AIを「自社の強み」にするか。

そのための道筋がいま問われていると、私たちは考えています。

画像4

---------------

次回のAI問答では、よくある質問第2位「成功するAIプロジェクトの秘訣」について、お話しをしていきたいと思います。

お楽しみに!

Dentsu AI Project
AI MIRAI
aimirai@dentsu.co.jp

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?