route207

画像1 紛れもない潮風が吹き続けていたけれど海の匂いはしなかった。自分の体臭のように、いつでも漂っている筈の海の香りに気がつかないだけだろうか。車とバイクが走り去る合間に波の音だけが聴こえる。テトラポットは波を鎮めるために佇み、夕陽が海に溶けるのを待っていた。刹那の間、潮の香りが届いた。
画像2 向こうからバスが近づくのが見えた。彼はバスを待っていたのではなかった。ベンチから立ち上がり海沿いを歩いて行く。乗客を乗せたバスと、彼が去ったバス停の写真を撮った。シャッター音に、彼が振り返る。父と同じくらいの歳だろうか。夕闇の中のその表情はもう見えない。彼も海と夕陽を撮り始めた。