ウェビナーのメモ - 若手ガイドの意見書

先日、若手の訪日外国人向けのガイドとしてウェビナーにパネラーとして参加する機会をいただき、登壇してきました。
その準備のために少しばかり話す内容を考えた際にメモ代わりにこのnoteを書いたのでそれをシェアしてみます。
ウェビナーでは話せなかったことも少しばかり追記していたりします。

ウェビナーの内容がにご興味あれば、こちらからご視聴できます。


1.なぜガイドになろうと思ったのか?

ウェビナーの中で質問されるかと思って準備していましたが、実際にこの質問はなかったのでこの際をお借りして少し書きたいと思います。

自分の母国(日本)のことを知らなすぎた。

高校と大学を海外で過ごしていた時、自分が日本人であることを意識させられる瞬間がたまにありました。また、それとセットでいつも感じていたのが「自分って日本人なのに日本のこと何も知らないな」という感覚でした。
それもあって社会人になるタイミングで日本への帰国を決め、新卒で日本国内の企業に就職をしました。
しかし日本でただ普通に社会人を続けるだけでは、海外にいた時に感じていたモヤモヤは晴れないことに気づいたんです。日本で暮らしていても、何気ない日本の現代の日常には日本独自の文化や歴史の深さを知る機会はほとんどありませんでした。
たとえ日本の歴史や文化について知りたくても、当時の会社員としての僕の日常生活はそういったこととは大きくかけ離れていました。結局のところ、日本で普通に生活をしてしまうと、その必要性すら無くなっていたということも大きかったかと思います。
そんなこんなで日本で仕事しながらになんとなく思っていた心の奥底に眠る潜在的な願望こそ、外国人に自分の国の歴史や文化を自信を持って話せることだったのかもしれないと今にして思います。

フリーランスの働き方がしたかった。

マインド的なことの他に、ガイドという仕事を選んだもっと現実的な理由はその働き方にあったかと思います。当時会社員をしていた僕にとって、「仕事をこなして認められた分の対価をもらう。逆に働かなければ報酬はない」そんなシンプルな働き方が自分には合うと感じていて、より評価制度の透明度が高いフリーランスの働き方のほうが自分には合っているような気がしていました。

とはいえ、フリーランスといえば、ライターやプログラマー、ウェブデザイナーなど限られた職種にしか開かれていない働き方というイメージがあり、そのどのスキルも持っていなかった当時の自分にはどうすればフリーランスになれるのかすら分からずにいました。
そんな時にたまたま知った通訳ガイドという仕事。当時持ち合わせていた唯一の金になるスキル、英語を使うことでフリーランスになれるということで、ガイドをはじめたわけです。

2.どうやって仕事を見つけたか?

実は、前職を次のあてもなく辞めて、東南アジアでフラフラしていた時に当時外資系の旅行会社で働いていた大学時代の知り合いが声を掛けてくれたことがきっかけだったんです。
正直なところ、知り合いに紹介されるまでこんな仕事があることも知らず、とりあえず、仕事のアテがなかったこと、英語が話せること、フリーランスで働けることという理由だけで仕事を引き受けることにしました。

もう少し具体的な話をすると、当時その旅行会社は若者だけ(〜29歳)を対象にしたパッケージツアーを販売していて、それをスルーガイドしてくれる若手の人材を探していたところだったのです。幸運なことに当時ツアーが定期的に催行されていたので、それを請け負う形で経験と実績を積むことができたので、よくガイドなりたてが陥るような仕事がない負のスパイラルには陥らずにすんだのです。

さらに裏の話をすれば、その知り合いからガイドの仕事を紹介されて、実際に最初のガイドを請け負うまでひと悶着があり、請ける予定だった仕事が一回まっさらになる事態があったのですが、それはここでは一旦割愛します。

3.仕事としてどうだった? いくらくらいの給料?

前提として言っておきたいことが、ガイドは合う合わないがはっきりする職種です。特に僕がやっているロング(1〜2週間)ツアーのスルーガイドだと、”ワークスタイル=ライフスタイル”と言っても過言ではありません。なので例えば、自分の家にしばらく帰れないなんて無理という人はそもそもロングツアーのガイドは向いていません。
でも、逆にそういう働き方が性分に合うのなら、ガイドは一石五鳥くらい恵まれた仕事だと言えなくもありません。個人的にはそう思っています。
   ・メリット1:旅行がタダでできる
   ・メリット2:世界中の人と知り合いになれる
   ・メリット3:語学を活かせる
   ・メリット4:日本の歴史文化地理が学べる
   ・メリット5:上記をお金がもらってできる

これらを一つの仕事で得られるのはおそらくインバウンドガイドだけではないでしょうか。

お金の話(スルーガイドの場合)

ガイドは基本個人事業主なので、報酬は給料ではなく事業としての売上としてもらうことになります。
当然ですが、会社員のように毎月定額ではもらえません。働いた分だけ、しかも時期によって仕事量が変動するので全くもって安定はしていません。
では、年間で会社員のボーナスを含む給料とガイドの売上高を比べるとどうなのか? - おそらく会社員の方が金額的には高いかと思います。
ただガイドの金銭的な旨味はそこではありません。むしろ残るお金にあると思っています。会社員の場合、額面の給料をもらうとまず源泉徴収で税金が引かれ、そこから生活のための固定費がそれなりに掛かります。それに加え、旅行好きならたまに旅行へ行くにはそこにもお金は必要ですよね。それを全て差し引くと一体いくら残るのか。
対して、ガイドは個人事業主なので節税ができます。事業経費に関してはスルーガイドだと働くことが生活することと重なる(ワークスタイル=ライフスタイル)ので経費になりうる買い物が容易にできてしまうメリットもあります。さらにロングツアーをやればツアー中の生活費も浮くし、普段から旅行に行くので、わざわざ旅行に行かなったりします(というのは個人的な話かもですが)。
ということで、会社員とスルーガイドをライフスタイルとして捉えるとイメージがつきやすいかもしれません。

4.どんなスキルが身についたか?

究極の万能型知識

ガイドとして幅広い知識を身につけようとすると、どうしても一点集中の知識人には勝ち目はありません。
たしかに、僕はガイドになって多少物知りにはなったと感じています。日本で外国人から聞かれそうな範囲のあらゆる分野の知識はなんとなく持っているけれど、どれをとってもその道のエキスパートには到底及びません。
分かりやすく言い換えると、外国人からの質問にどんなトピックの話も5分程度なら話せるが1時間話せと言われるとネタ切れになるという感じでしょうか。だけど、もしガイドをやっていなかったら聞かれるトピックの内、半分は全く答えられないと思うし、残りの半分の質問への回答も多分30秒で終わっていたと思います。

少し視点を変えて、仕事としてワークスキル的なところにフォーカスをして考えてみると、正直ガイドとして改めて身につけた特別なスキルは何もないように思います。
有能なガイドがいたとして、そのガイドの有能たるがゆえんは、他のフリーランスや経営者で有能な方々と同じスキルと持っている点かもしれません。例えば、先々までの仕事を請ける配分やスケジュールの管理は他の経営者だっておそらくやっていること。ツアーの現場で、観光地でグループを先導して歩きながら、観光地についての知識を外国語でシェアしながら、ゲストの様子を見て疲労度や興味の有無を確認して、それに対応していく。これは立派なマルチタスクですが、誰だって少なからず複数のことを同時にこなして仕事をしているので、それほど威張れるような内容でもない気がする。
個人的にはそんな感覚でいます。

5.もっとガイドが活躍しやすくなるために必要なこと

若手ガイドで圧倒的な成功例というのが今のガイド業界には必要かと思います。そして、メディア露出をしていることも大事な要素です。ガイドという仕事自体がゲストがいるので彼らを立てて、裏方役にまわるイメージが強く、自らがインフルエンサーやプロフェッショナルな役回りでメディアなどの表舞台に積極的に出ることがありませんが、それすら変える必要がありそうです。
実際に若手の人材不足が話題になるのもあくまでも業界内のことであって、それが世間一般には届いていないというのが実情です。

環境として求めることは、一人前になるまでの組織内での育成が必要ではないでしょうか。

組織内での育成


通訳ガイドは個人事業主だから会社とは対等にあるべきで、仕事の受託からスキルアップなど全て自分自身で行うべきと突き放してしまっていいのでしょうか。
僕は、今のガイド業界はそういう風潮が少なからずあると思っていますし、それではこの先の日本の観光業界のために良くないと思います。

そんなことを言うと、ガイド団体がその役割を担っている言われたりします。たしかに、ガイド資格を取得後、団体に所属することで、団体主催の研修への参加したりや仕事を紹介してもらうということがあるらしく、組織として動いている点は良いと思います。

「若手」ブランドの優遇

若手というだけで優遇してあげないと人材は育たないということです。過保護で甘やかしているようにみえ、年配の方は納得しづらい内容ですが、それくらいハンディキャップを与えないと現状のガイド業界に若手が入り込む余地はあまりないような気がします。
そこを「いや、そんなことはない。頑張りが足りないだけだ」などと言ってしまうと未来の業界の為にはなりません。

では、具体的になにをすれば若手を優遇することになるのか?

結局のところ、若手が活躍しづらい点としてガイドになりたては【仕事がなかなかまわってこない、とれない】という点かと思います。この問題から派生して色んな不都合が生まれ、それが負のスパイラルを生むという悪循環がある気がします。

仕事がない→経験値が詰めない→収入がない→研修に参加できない→スキルアップできない→自信が持てない→仕事につながらない

そこで、今回は具体的な提案を一つしたいと思います。

旅行会社が人材を一度雇用して副業としてガイドを推奨するというのが現実的な打開策かと考えています。
それであれば、そもそも旅行会社自体は若手が集まらない業界ではないですし、実際に旅行会社に就職したい大学生も少なくないと思います。

大事なのは、あくまでも将来的にガイドとして独立してもらうというところを前提に雇用をすることです。そこはイチ旅行会社で全てを面倒を見るのではなく観光庁や自治体なども将来への有望人材の育成として予算等を確保することが必要かと思います。

フェーズ1:人材の確保
ポイント①:ガイドになりえる人材を慎重に選定(ライフスタイル、思考)
ポイント②:旅行会社の業務はできるだけリモートワークで完結するもの。

フェーズ2:ガイドと社員の兼業
ポイント①:ガイドの仕事は社員としての業務ではなくあくまでも副業。
ポイント②:ガイドとして自立して稼ぐスキルを身に付けさせる。

フェーズ3:ガイドを一本化(本業)にする
ポイント①:どこかのタイミングでガイドを本業へと移行。
ポイント②:希望に応じてガイド一本化後も旅行会社の業務を委託可。

ポイント1:金銭的なサポート
結局のところ「ガイドとしてちゃんと食っていけるのか?」というのが気になる人は多いはずです。
就職をする段階でガイドのスキルや経験が十分という人はほぼゼロだと思うので、それらを身に付けてもいない段階でフリーランスとして独立してやっていけないというのもごもっともな点です。
ですので、フリーランスとして最初から独立するのではなく会社に所属しながらガイドのスキルや経験を身に付けていき、どこかのタイミングで本業へとシフトするのが安心感のある入りではないでしょうか。

ポイント2:研修への優先参加
実践に勝る経験はないというのは個人的にも大賛成ですが、一方で実践だけではなく研修などに参加して知識を得たり、自分のガイディングを客観的にみる機会もスキル向上にはとても大事なことです。しかし、ガイドになりたての頃は仕事もそれほど頻繁にはなく、収入もないので支出を切り詰めるようとした結果ジリ貧状態になってしまいがちです。というのも、研修に参加したいと思っても、質の高い研修であればあるほど研修費が高かったり、参加するための選考の段階で経験者が優遇されてしまったりして研修への参加自体のハードルが高いのです。
そうならないためにも、組織が安い仕事をこなしてもらうための駒として囲い込むような目的ではなく、ガイドの経験年数がわずかうちからきちんと稼げて実力を上げていける継続性がありかつ実践的な研修が必要ではないでしょうか。

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