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Nahuel Note #066 "El Prófugo" 〈Alberto〉(2020)

『El prófugo(侵入者)アルゼンチン、メキシコ、2020年、94分

公開日:2020年2月21日 (ベルリン国際映画祭にて初公開)、2021年9月30日(アルゼンチン公開)
言語:スペイン語
英語タイトル:The Intruder

監督:Natalia Meta
脚本:Natalia Meta, Leonel D'Agostino, C.E. Feiling
Inspired by the novel “El Mal Menor,” by C. E. Feiling.
出演:Cecilia Roth … Marta
Nahuel Pérez Biscayart … Alberto
Erica Rivas … Inés
Daniel Hendler … Leopoldo
Guillermo Arengo … Maestro
公式サイト:http://elprofugo.com.ar/

Instagram:  https://www.instagram.com/elprofugofilm/
Twitter: https://twitter.com/elprofugofilm
FB: https://www.facebook.com/elprofugofilm

Nahuel インタビュー: instagram

監督インタビュー:Youtube
監督ベルリナーレインタビュー:Youtube
監督ロンドン映画祭インタビュー:Youtube
ベルリナーレ、ハイライト:Youtube
ベルリナーレ、レッドカーペット:Youtube
ベルリナーレ:Youtube

予告編→
ベルリナーレ予告編→
メキシコ版予告編 →


本作はコロナが迫っていた2020年2月開催のベルリン国際映画祭でプレミア上映。ナウエルさんはこの時は『ペルシャン・レッスン』の上映もあったので、2日続けて登場(行きたかった…)。『ペルシャン・レッスン』の方は2年以上かかったけれど日本で劇場公開。しかしこちらの『El prófugo(The Intruder 侵入者)』は公開の気配なし。配信で見られるところもあるけれど、日本からはなかなか難しい、ということで諦めていたら、なんと、台湾版DVDが2021年12月に出てたことに気づきました。しかも英語字幕付き。
リージョンフリーDVDプレイヤーも入手して、無事に鑑賞しました。

「声魔入侵」…なるほど。

監督のインタビューによると、本作は3つのインスピレーションから作られており、1つ目がアルゼンチンの作家C.E. Feilingが1997年に発表したホラー小説「El Mal Menor(The lesser Evil)」。2つ目は監督が最初の映画を作った際の、音声ダビング作業という体験。3つ目はコーラスをやっている友人経由で知ったというパイプオルガンという楽器の存在。

映画は、主人公イネスが仕事で映画の吹き替えをしているスタジオから始まる。写っているのは日本のホラー映画(おそらく実際は存在していない映画)。その後、恋人のレオポルトと飛行機に乗り込むと、幼い頃から繰り返し見てきた不思議な夢をみる。メキシコのホテルに着き、その夢について嫉妬するかのようにしつこく尋ねてくるレオポルトから逃げ、バスルームに閉じこもっていると、その間に何故かレオポルトがテラスから身投げし、階下のプールに死体となって浮いている…。
その後、ブエノスアイレスで日常生活に戻ったイネスは、声が出にくくなり、声優の仕事にも、コーラスにも支障が起こっていく。そこへ離れて暮らしていた母親がやってきて、一緒に暮らすようになり、イネスは同時にコーラスの練習時にホールで知り合ったオルガニストのアルベルト(ナウエル)と知り合い、良い感じになっていく。

という、心理ホラーな雰囲気の作品で、夢と現実、妄想の境目がずっと曖昧。彼女の中(声)に何かが侵入している、というのも、イメージなのか、実際にそうなのか、オチも曖昧で明るいので、映画的に満足しない観客もいそうだけれど、私は内と外というテーマ展開が面白かった。監督はホラーという体裁の中では悪意や欲望が現在化できると語っていたように、基本的に主人公の女性の心理が、目に見える出来事として描かれていると思われる。

そもそも彼女がしている映画の吹き替えという仕事も、他人の体の中に自分の声で侵入している。さらにナウエルさんが演奏するパイプオルガンというのは、内臓が剥き出しになったような外見の通り、いわばホール全体が楽器なので、彼女たちは、音を出す身体の内部にいるとも言える。
ナウエルさんは、パーティーシーンで不意に彼女の視野に入ってきたり、不意に抜け出たり、不思議な通り抜けの技で彼女の生活にスルリと侵入して居座っている。
インタビューで主演のエリカ・リバスが、新しいフェミニズム的な要素があるということを述べていたように、本作、基本女性映画であり、侵入という生殖的には男性的な行為を女性側に置いたり、裏返したり、色々と捻れているのも面白い。主人公の母親が最初に年下の同僚アルベルト(ナウエルさん)に会ったときには、「Fairy(同性愛者ぽい)」という感想が述べられ、マッチョな元彼とは対照的な存在なのだと強調される。


さて、赤いセーターが印象的なナウエルさんは、とっっっっっっっっっても可愛くて、天使なんですが、一つ、モヤモヤすることが。
最初に出た画像が、これだったのに、

ベッドシーン、なかったんですけど?!
あるいは台湾版だけの削除?しかし公式インスタに上がっていた削除シーン(instagram)が確かにこのベッドシーンに繋がる部分だったので、やはりなしで完成版なのか…?私の理解が正しければ、映画のプロット的には、イネスとアルベルトはもっと親密になっていないとおかしい(母親の態度とか考えても)と思うので、モヤモヤが残りました。

↑こちらが本編にはない、削除シーン。

エリカ・リバスはアルゼンチンの大ヒット映画『人生スイッチ』(2014)の人だし、母親役のセシリア・ロスはアルモドバル監督の常連。日本でもどうか今からでも公開を…そしてベッドシーン削除の謎を解いてほしい!

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