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価格変化率は正規分布に従わない

金融データ、特に資産価格の変化率(リターン)は、理論的には正規分布に従うと考えられがちですが、実際にはそうではありません。
これは「金融市場の異常(アノマリー)」として知られており、いくつかの特徴があります。

  1. 尖度【せんど】(Kurtosis): 金融データのリターン分布は、通常、正規分布よりも尖度が高いです。
    これは、「fat tails」としても知られており、極端な値(非常に高いまたは低いリターン)が正規分布よりも頻繁に発生することを意味します。
    尖度が高いということは、市場のクラッシュやブームが統計的なモデルよりもはるかに頻繁に起こりうるということです。

  2. 歪度【わいど】(Skewness): 正規分布は対称ですが、実際の金融データはしばしば歪んでいます。
    これは、リターンが特定の方向に偏っていることを意味します。
    たとえば、株式市場のリターンには通常、負の歪度があり、小さいリターンは比較的頻繁に、大きなリターンは少なく発生しますが、大きな損失(大きな負のリターン)は予想よりも頻繁に起こります。

  3. ボラティリティ・クラスタリング(Volatility Clustering): 金融データでは、大きな価格変動が起こりやすい期間とそうでない期間があり、これをボラティリティ・クラスタリングと呼びます。
    正規分布を仮定すると、これらのクラスタリングは存在しないことになりますが、現実にはリターンの変動性が時間と共に変化することがよくあります。

  4. レバレッジ効果(Leverage Effect): 多くの場合、資産価格の下落はボラティリティの上昇と関連しています。
    これはレバレッジ効果として知られ、市場が下落すると、損失を抱える投資家がポジションを閉じたり、追加の資金を投入したりすることで市場のボラティリティが増加します。

  5. 長期依存性(Long Memory): リターン系列またはそのボラティリティにおいて、時間を隔てた観測値間に相関関係が存在することがあり、これは長期依存性または長期記憶と呼ばれます。
    正規分布では、独立性が仮定されていますが、実際には過去の市場の動きが将来の動きに影響を及ぼすことが多いです。

これらの特性のために、金融モデリングでは正規分布を使用する代わりに、より重い尾を持つ確率分布が使用されることがよくあります。
例えば、安定分布、パレート分布、または学生のt分布が使われます。
また、これらの特性を考慮に入れた金融理論が開発されています。
たとえば、ボラティリティのクラスタリングをモデル化するためにGARCH(Generalized Autoregressive Conditional Heteroskedasticity)モデルなどが利用されています。

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