【レビュー】イヤーカフ型イヤホン、Cheero Wireless Open Earphones Smart CHE-645とどう付き合っていくべきか解らない。

数日前の話。
都内某所のゲームセンターでザンギエフ活動に勤しんでいた私は、うっかりその場に格下しか居合わせなかった事で対戦相手が居なくなってしまい、とぼとぼと近場のドン・キホーテへと足を運んだ。
ドンキは良い。人の欲というものを無造作に陳列した空間は、ただ徘徊しているだけでも私がこの世の全てを見て尚なにも理解できない事を悟った賢人であるかのような気持ちにさせてくれる。
値引き札に誘われて大して安くもないものに浪費し、時折圧倒的に安いものを見つけたかと思いきやそういうものに限って本当に必要性が感じられない。
それでも行く度に部屋にはくだらない空き箱が増えていく、そんな楽園だ。
そしてこの日もまた、私は見事誘蛾灯に掛かったという訳である。

このcheeroというブランドは、ドン・キホーテのようなディスカウントストアであったり、低価格ガジェット類が絡む場には大抵顔を見せている。
誰しも一度は店頭で見かけた事があるだろうダンボーを模したモバイルバッテリーがまさにこのcheeroブランドの代表的商品であり、ぶっちゃけるとそれ以外で語られる事は殆ど無い。
とはいえ低価格ワイヤレスイヤホンをコンスタントに発売しており、ある意味においてはこの分野の常連とも言える。

そしてこのWireless Open Earphones Smart CHE-645はそんなCheeroの商品ラインにおいても新作に分類される。
なんとも低価格メーカーらしい、というよりAmazonのノーブランド中華メーカーの出品名をそのまま英訳したようなやる気の感じられない商品名でいまいち食指が動かなかったが、イヤーカフ型には興味があったので購入してみた。
おおよそ実売価格は3000円に満たない程度であり、値引きされていても大体その程度であった。

パッケージ内容は本体、充電ケース、短いケーブル、清掃用クロス、取説類。実に標準的だが、いまいち持ち歩き方を悩ませる小さなクロスを付属させる微妙な親切心はやや印象的だ。
再生時間は4.5時間、充電時間は1.5時間とバッテリー周りは2世代遅れている印象を受ける。必要十分ではあるのだが、バッテリーがヘタれてきた頃が若干心配だ。
コーデックに関してはきちんとAACまで対応しており印象が良い。散々メーカーが上位ライン売りたさに「AptXはAACに決定的に勝る!AACは所詮下位コーデックだ!」といったように喧伝してきたせいで世間一般の印象はそう良くないが、実際にはAACは本当に完成度の高いコーデックであり、正直飛び抜けて高音質なLDACや付加価値の大きいAptXLLのようなもの以外は殆どAACとの差を感じる事は無いだろう。

充電ケースのサイズは平均的で、表面はマットな加工が施されている。
使用感は至って平均的だが、若干手に持った時の素材の硬さなどの質感に安っぽさを覚えるというか、高級感は全く無い。
若干充電端子の作りが悪いのか、微妙に充電の接続が不安定な事がある。

本体のビジュアルにも、イヤーカフ型であること以上の特徴は無い。
色がやや淡めでデザインが地味な為、いまいち「イヤーカフのエロさ」のようなものは感じられず、公式がプッシュするファッション的価値を見出して使うのは若干厳しそうだ。
操作系統は近年の主流であるタッチパネルではなく物理ボタンであり、汗で誤反応しない点などは有用なのだが、どうもこのイヤホンにおいてはデメリットの方が勝るように思えた。

装着感は悪くない。イヤーカフ型の独特さはあるがブリッジの硬さなどに特に問題はなく、軽い感覚でしっかり固定されるのは優秀。
試しに激しいヘドバンをしてみても全くズレる気配がないので、装着性に由来するストレスはかなり適切に排除できていそうだ。
イヤーカフ型らしく周囲の音が全く遮られない為、これでバッテリー持ちさえ良ければ日常生活の中に自然と溶け込む事ができただろうに……という惜しい気持ちがある。

さて、イヤホンとしての本題、即ち音質についての話に入る。

率直に言うと、このイヤホンの音質はだいぶ残念だ。
曇り感はないが全体に質感が非常に軽く、分解能も感じられず、低域は全く聞こえず、中高域も安物イヤホンにありがちな突っ張った質感だ。
ボケたような印象は全く無いが、細かいディテールが「ハキハキと潰れている」印象であり、低域の軽さなども相まって非常に楽曲がスカスカに聞こえる。
発音部を耳穴にぐっと近づけてみると、その状態で聞こえる音は一般的な安いイヤホンと同じであり、決して低域が発音されていない訳ではない事がわかる。音質面の欠点の多くは開放型の持ちがちな部分が極端に突き抜けたような内容である為、イヤーカフ型というコンセプト自体が持つ音質面の不利な点をチューニング等で補おうとしなかった結果の産物というだけの話のようだ。
擦れや音割れ、奇妙な反響などの不快音は無いが、何を鳴らしても常に「音質が悪いなぁ」と意識させられる。唯一、Lo-fi hiphopだけは許容できる音質で鳴った。

何分音質が100均のハズレ気味なイヤホンと同等なので、基本的に音楽を聴くという行為自体に非常に適さない。
「聞き取れれば良い」以上の音質が求められない分野、即ちオーディオブックなどにかなり特化しているという印象だ。
人に呼びかけられればすぐに応対できる状況を保って作業しつつオーディオブックを聴く、といった用途になるのだろうと思われるが……かなり限定的というか、狭い用途の話になってしまう。

更に、その音質が僅かな装着位置のブレによって変化してしまう点と物理ボタンの相性が非常に悪い。
物理ボタンを押す為に力を加える度、少しづつイヤホンがズレていく。片側のみベストポジションからズレるような状態になっては手動で直すを繰り返す事になる為、ここはイヤホン自体がズレないタッチパネル式の方が良かったのではないかと思わずにはいられない。

また、これに関しては私の個体だけの可能性もあるのだが、どうも常時それなりの回路ノイズが発せられているように思える。
無音状態が数秒続くとノイズも停止する為そういったノイズに対処するための仕様自体はきちんと生きているのだが、仮にこの常にカリカリボソボソと聞こえるものが正常とされる範囲内の音であった場合、なんというか擁護してやることができない。

遮音性のなさを活かして日常生活の中にBGMを導入するような使い方をすると、音質の悪さがストレスになってしまう。
動画を見る時に使うにしても、なんというかもう少し音質が欲しいと思う場合も多いだろう。
オーディオブックを頻繁に使う人でもない限り、正直このイヤホンを買うべき状況というものが考えられないと感じてしまった。

装着感、安定性は非常に良い。オーディオブックのヘヴィユーザーであれば、かなりこのイヤホンはおすすめできるだろう。
だがそれ以外に関しては、率直に言って買う理由が無い。
周囲の音が聞こえるBGM再生装置が欲しければ、QCYなどのより音質に勝る優秀な半開放型を買えば良い。Airpods形状の物を買ってウイング付きのシリコンチップを装着すれば、運動中でも安定して装着することができる上、低音の逃げも抑制できる。
流行や物珍しさでイヤホンを選んでも、結局最重要ファクターは音質なのだ。
そしてオーディオブックの中身というのは、要は具体的な文章である。そこそこ意識して聴く必要があるものをこう漠然と聞き流すのに適したタイプのイヤホンで聴くというのは、ちょっとどういうことか良くわからない。
私はオーディオブックを使わないので詳しい断言は避けさせてほしいのだが、こういったものは周囲の声がよく聞こえるようにする意義があるのだろうか?

結局、私はこれをどう生活に取り入れるのか、という結論が一つも思いつかなかった。
この価格帯で安定して動作するイヤーカフ型TWSが手に入る事には意義があるだろう。だが結局の所は所詮最低価格帯といったクオリティというか、そこで終わってしまっているという印象を受けた。
これは形に個性があろうとイヤホンでしかなく、それ故に結局は音質が駄目だと使い道を失ってしまうのだな、と。

この分野に低価格帯TWSのパイオニアたるQCYが参入してくる日が待ち遠しいな、というよくわからない一言をもって締めさせていただく。

2024/04/14 追記

この記事を書いてから、なんだかんだでずるずると試し続けてみている。
一応継続的に使うことはできているが、このイヤホン固有のメリットというものはあまり感じられていない。
せいぜい食事中に付けても咀嚼音が跳ね返ってこないだとか、足音が耳の中に響かないだとか、その程度である。
なにせ、イヤーカフであろうとなかろうと、話を聞こうとする時には再生を止めるのは変わらないのだ。

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