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書くことの喜び、その原体験

文章を書くことで喜びを感じた最初の記憶は、小学校の頃に聞いていたラジオの掲示板だったと思う。

私は小学校から中学校にかけて、SCHOOL OF LOCK!の熱心なリスナーだった。この番組は、中高生をメインリスナーとする学生のためのラジオ番組で、現在も平日の22時から24時にTOKYO FMで放送されている。そもそもこの番組を聞き始めたきっかけは、大好きだったSEKAI NO OWARIが「アーティストLocks!」なる、ミュージシャンが曜日ごとに持つ30分程度のコーナーを担当していたからだ。小学校6年生当時の私と言えば、兄の影響で邦楽ロックに心を占拠され始め、授業中も家でも四六時中頭の中で音楽が鳴っていた時期。そんな私は音楽を媒介に、この番組と出会った。

この番組には音楽があり、言葉があり、感情があった。
音楽で共に心を熱くし、思春期の悩みに寄り添い、言葉で未来への希望を奮い立たせるような、そんなラジオだった。
今でも、当時長らく校長(という名のMC)を務めていたグランジの遠山さんを、聖母ならぬ聖父のような存在だと思っている節がある。「良い人」であることが笑いの妨げになりうる芸人にとってみれば、まったく迷惑な話だと思う。

それでも、中二病真っ只中のがきんちょの言葉にも真摯に向き合ってくれたこと。この人だったら、どんな不安や醜い気持ちも受け止めてくれると思わせてくれたことは、私の人格形成にも小さくない影響を及ぼしたんじゃないかと思う。いつからか嘲笑の空気が支配的な時代になってしまった昨今。中学生当時の脆い私がこのチクチクとした世界に晒されていたら、きっと深く傷ついていただろうし、もっと不安定な人間になっていたのじゃないかと思う。

で、この番組にはアプリ上の掲示板があり、私はここを居場所として、学校生活のことや好きな音楽のことなどを一日に何度も投稿していた。学校に居場所がなかったわけじゃ全くないけど、音楽や言葉を媒介にして、どこにいるかも分からない誰かと精神的に繋がれるこの場は、なによりも居心地が良かった。14歳当時の私には17歳のリスナーが妙に大人に見えたりして、勝手に慕ってみたり、興味を持たれたり、そんな掲示板上で生まれる甘やかな繋がりを隠し持ちながら、日々を過ごしていた。

そしてこの掲示板でやっていたことがもう一つ。

当時、音楽雑誌を熱心に読み漁っていた私は、音楽ライターの真似事みたいに新譜の感想やライブレポを書き連ねるようになった。というか、音楽ライターになりたいとさえ思うようになっていたので、自分自身にトレーニングを課すつもりで意識的に書くようにしていたのだ。音楽を聴いた時に動いた心の有り様をなんとかして言葉にしようとしたし、その言葉をこねくり回して飾り付けて、美しい文章に仕上げようとした。それらの投稿には徐々に共感やお褒めのコメントがついたり、ラジオで読み上げられたりするようになり、それが余計に私を奮い立たせた。

これが、書くことに関する最初の体験。

ちなみに、こういう過去の原体験的なものって、本来は記憶の中にしかないものだと思うんですが、恐ろしいことに、小中学校の頃に掲示板に書いていた投稿の数々が、スクリーンショットでスマホに残っているんです。それも、たくさん。
感覚的で不確かな記憶であったはずの「原体験」でさえも、今や資料を参考しながら客観的に書けてしまう…。

人生丸ごとアーカイヴ時代なもんです。


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