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23. カレーを煮込むのにベイリーフは必要なのか? 問題

ベイリーフというスパイスを知ってますか? 「もちろん。月桂樹の葉でしょ?」と答えた人は、正解です。「ローリエのことだよね」と答えた人も正解。では、次の質問。インディアンベイリーフというスパイスは知ってますか? 「ああ、シナモンの葉ね」と答えた人は、まあまあなインド料理マニア。インド料理の世界では、通常、ベイリーフというとシナモンの葉(シナモンリーフ)を指します。当然ですが、月桂樹の葉とは全く異なるものです。

月桂樹の葉はみなさんご存じの通り。シナモンの葉は多くの人が見たことがないと思います。手のひら大ほどあって、縦に葉脈が3本通っているのが特徴です。ベイリーフ(ローリエ)とインディアンベイリーフを混同している人は多い。僕も昔は間違えてました。インド料理をつくるときに月桂樹の葉をスタータースパイスとして油で炒めていたんですね。ところがインドに頻繁に行くようになって気がついた。あの葉の見た目、なんか違うぞ、と。

南インドにテッカディという山村があって、そこのスパイス畑を取材したことがあります。案内役のおじいさんが3メートルほどあろうかという大きな木の下に立って、「これ、何の木かわかる?」とニヤリ。首をかしげる僕に葉をちぎって揉んで渡してくれました。香りをかぐとシナモンの甘い香り。そう、その木はシナモンだったんです。それまで僕の知っているシナモンは、木の皮を剥いで丸めたものでした。おじいさんが木の皮を剥いで僕に渡してくれる。もちろん、それもよく知っているシナモンの香りでした。あの体験は忘れられません。

シナモンの木についている葉からシナモンの香りがするのは、よく考えてみれば当たり前のことです。それでもあの時の僕には信じられない体験だった。茶色いスティックからならともかく、青々した葉からシナモンが香るなんて! スパイスの香りに関してあれ以上インパクトのある体験はその後もありません。だから、僕が手掛けている「AIR SPICE」というサービスのロゴマークは、インディアンベイリーフ(シナモンリーフ)がモチーフになっているんです。

ところでここからが本当の問題。インドカレーではよく前半にシナモンリーフを油で炒め、鍋に入れたまま煮込みます。このときに決まって同じ疑問が頭をよぎります。

このシナモンリーフ、入れる意味、あるんだろうか?

なぜなら、日本で手に入る乾燥したシナモンリーフは、ほとんどなんの香りもしないからです。油で炒めたところで、シナモンリーフからシナモンの香りを感じたことはほとんどありません。しかも、シナモンリーフを使うカレーは、たいてい、シナモン(木の皮のほう)も一緒に使うんですね。こちらは香り高い。シナモンを使うならシナモンリーフはなおのこと必要ない気がします。一方、ローリエは乾燥したものでもいい香りがしますよね。ブイヨンをひくとき、欧風カレーを煮込むときにローリエを入れるのは、かなりの効果が期待できます。それでも僕がいくつかのカレーにシナモンリーフを入れる理由は、ふたつあります。

ひとつは、おまじない。キーマカレーやマトンカレーなんかを作るときにシナモンリーフを炒めると、なんとなく、おいしくなりそうな気がするのです。気がするだけです。香りはほとんど出ないのだから。ゲン担ぎに近いのかもしれません。もうひとつは、ハッタリ。仕上がりのカレーにくすんだ色の大きなシナモンリーフが紛れていると、いかにも本格的な感じがする。気分的に、というだけですが、これもまたなかなかいいものです。

ベイリーフはおまじないとハッタリのスパイスである。

……なんて言ったら、きっとベイリーフに怒られますね。

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