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78. スパイスブレンドの黄金比は存在するのか? 問題 PART1

スパイスのブレンドってわかんないなぁ、と思ったことが、過去に何度かある。何度かあるとか言って、じゃあ、その何度か以外の場合はわかっているかといえば、そうでもないのだけれど。ともかく自分の中の既成概念が覆されるような体験がたまにあるのだ。振り返れば、その多くはターメリックにまつわるものかもしれない。

カレー粉作成キットなるものを使ってせっせとスパイスをブレンドしていた大学生時代に、他のどのスパイスよりもはるかに多い量を使うターメリックに疑問を持った。この鮮やかな黄色をつけるだけのスパイスがなぜこんなに大きな顔をしているんだろうか、と。あの当時、僕に「ターメリックを使わずにカレー粉をブレンドしてみよう」とするアイデアがあったら、もう少し違う世界が見えていたかもしれない。そんな挑戦をすることもなく、「これだけ入ってるのだから、ターメリックは大事なスパイスなんだな」と理解した。

日本のカレー粉は特にターメリックの量が多いようだと分かったのは後になってからだし、ターメリックは色付けだけでなく、香りがとってもいいのだと知ったのもずいぶん後になってからだった。香りがいいとはいえ、入れすぎたら苦味が出てしまうことも経験上、知った。その後、インド料理を知るようになると、ターメリックの存在意義はさらに高まった。どんな料理にも合いの手のようにターメリックが入る。そうか、このスパイスは、少量でもいいけれどカレーを作るには欠かせないスパイスなんだな、と。

スパイスをブレンドしてカレーを作るワークショップをするときに、例えば4人分のカレーを作る時に僕がよく例に出す基本のミックスは、「ターメリック:レッドチリ:コリアンダー:クミン」を「小さじ1:小さじ1:大さじ1:大さじ1」で混ぜ合わせるというものだ。すなわち「1:1:3:3」で配合する。ターメリックやレッドチリ(もしくはパプリカ)は、使用量は少ないがなくてはならない存在だと説明することにしている。わかりやすくそう言っているが、本当は4人分に対してターメリックは、小さじ1/2でもいいと思っている。作るカレーによっては小さじ1/4でもいい。

ところが、そんな僕にとっての常識を覆す事態に遭遇した。友人がインドでインド人から習ってきたムグライチキンカレーの配合比率を聞いた時だ。4人分のカレーに対して、「ターメリック:レッドチリ:コリアンダー:クミン」を「大さじ1:大さじ1:大さじ1:大さじ1.5~2」で使うという。比率的には、「1:1:1:2」。4人分のカレーに大さじ1のターメリック! んんん!? しかも総量もかなり多い。半信半疑で作ってみると、うまいのだ。ターメリックをこんなに入れてもいいのか……。

でも待てよ、じゃあスリランカのカレーはどうなるんだ。ターメリックを使わずにカレー粉をブレンドしている。それなのに、おいしい。じゃあ、ターメリックは要らないの? ターメリック信仰に陰りが見え始める。どこかで見た洋書のチェティナードチキンカレーのレシピには、ターメリックを全く使わないものがあった。配合するのは、「クミン:コリアンダー:フェンネル:ブラックペッパー」を「1:1:1:2」で混ぜ合わせるという。やってみたら、やはりおいしい。やっぱりターメリックは入れなくてもいいんだ……。

どういうことなのか。混乱する。最近、仲間たちと一緒にとある店の名物カレーを再現するという遊びを始めた。遊びと言っても割と本気で、何度も試作しては、その店に持ち込み、シェフに食べてもらい、コメントをいただきながら推測でレシピを完成させていくというプロジェクト。これが楽しい。シェフからヒントとして、ベースとなるスパイスの配合について教えてもらった。すると、「コリアンダー:クミン:パプリカ:ターメリック」が「3:2:2:2」だという。またしても「!?!?」となった。やはり、ターメリックの配合比率は極めて高いのだ。実際に試してみると、またまたうまい。

ターメリックは少量を使っても、大量に使っても、全く使わなくてもカレーはうまくなる。要するにそれぞれに適した作り方さえ整っていれば気持ちよくゴールテープを切れるというわけだ。黄金比は、ないの!? なるほど。そういうことなら、以前からトライしてみたいと思っていたスパイスブレンドの方法論について足を踏み入れてみようと思ったのだ。(来週に続く)

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