59. カレーのアクは取り除いたほうがいいのか? 問題

カレーを作るときにアクのことが気になる人は結構いるんじゃないか、と思う。実際に「アクはどうするんですか?」的な質問を受けることはたくさんある。このときにアクをどうするかの判断材料には、主に2通りのことが関係してくる。

ひとつ目は大前提として、なのだけれど、「そのアクが不味いかどうか」だ。アクは不味いものだと決めつけていれば、「取ったほうがいいに決まってる」となる。でも、アクって本当にまずいんだろうか? アクのことが気になる人は多いけれど、アクをすくって食べてみたことのある人は少ないだろう。

僕は10年以上前に初めてアクを食べた。NHKの人気番組「ためしてガッテン!」でカレーを特集することになった時、企画から参加させていただき、出演もしてルウカレーを作ったことがある。そのときにこのアク問題が浮上した。そのときに「食べてみましょうか」と言ったのはディレクターだった。スタッフも僕もアクをすくって食べてみた。すると、不味くない。結果的に「アクは取らなくていいということにしましょう」ということになった。これがこの問題の結論というわけではない。たまたまそのカレーのレシピ上、出てくるアクは不味くなかったということだから。ともかく、アクは不味ければ取り除くし、不味くなければ取り除かなくていいというのは、いったんの答えとしておこう。

次に、ふたつ目の判断材料として考えたいのは、「そのアクはどのタイミングで出るのか」だ。こっちの判断材料はまあまあ難解。わかりやすく言えば、そのカレーをカレールウで作るのかスパイスで作るのかによる違いとも言える。カレールウで作るなら、ルウを鍋に投入するのは調理の最後の最後だから、手前で煮込んでいるときに出るアクが不味ければ取ればいい。不味くなかったのが「ためしてガッテン!」の例だ。

スパイスで作るときは、ちょっと困ったことになる。スパイスを加えるタイミングは、主にホールスパイスならスターターで一番最初だし(仕上げのテンパリングは別として)、主にパウダースパイスなら玉ねぎなどのベースと絡めることになる。いずれにしても、煮込む前であることに問題が生じる。水分が入り、具となる肉や野菜、魚介類などを加えたときには、そのカレーに必要なスパイスはおおかた鍋の中にいることになる。

そこから煮込み始めて仮にアクが浮いてきたとして、食べたらどんな味がするだろうか。意外とうまいはずだ。だって、油分も香味野菜のうま味もスパイスの風味もすべてが混ざり合った、溶けあった状態でアクが浮いてくるわけだから。この場合、アクは取らないほうがいい、となる。アクを取ればおいしさも減ってしまう。しかし、実際にアクは出ているのだ。アクだけを取り除くことができない点に不満が残る。

だから、アクが出ないようにメインの具は下処理をしておくべきだと思う。生肉を放り込んだらアクは出る。別に炒めたり焼いたりするだけでも違うだろう。もしかしたら、理想は、具を下処理した上で加えるべき水分と一緒に別鍋で煮込み、アクを取っておいてベースと混ぜ合わせることなんじゃないかと思っているが、この話はちょっと長くなるので今回はやめておく。ともかく、ルウカレーのアクは取るがスパイスカレーのアクは取らない、というのが大雑把に言えば答えになる。

要するにその鍋の中がカレーになってしまったらアクは取り除けない。取り除くならカレーになる前にするべきだ。オトナになってしまったらクセや欠点をなおすことは難しい、というのに似ているのかも。そういうことはコドモのうちにやっておかないとね。

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