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27. チャイの砂糖は別添えにしたほうがいいのか? 問題

10年以上前からマリアージュドフレールという、おフランスブランドのお茶を気に入っています。定番のマルコポーロというフレーバーティが特に好きで、何かにつけて誰かにめでたいことがあると贈ってみたり、自分で買ってみたり。思わず目を閉じてしまうようないい香りなんですね。ところが、数年前にインドのダージリンに茶葉を摘みに行ってから、事態が急変したんです。

フレーバーティっていうものに昔ほどときめかなくなってしまった……。

あんなに香りに酔いしれていたはずなのに。イギリスで人気のアールグレイなんて、もってのほか。そればかりか、喫茶店で紅茶を飲む機会すら激減しました。いや、ま、好きですよ、今でも。ただ、僕をそんな風にしてしまったのは、インドのダージリンに茶葉を摘みに行ったときに飲んだファーストフラッシュ(春摘み)、マスカタル(マスカットフレーバー)ティーでした。スーッとのど元を過ぎた後に脳天を優しくノックされるような風味が残る。そしてその余韻がとても長い。茶葉の香りを楽しむってこんな味わいなんだ、という新鮮な体験をさせてくれました。

ある植物の葉を加工しただけであんな香りが出るんだったら、別のフレーバーをあえて添加する必要はないはずなんですね。そうか、お茶ってそういうことなのか。いや、そういうことなのかどうか知りません。ただ、少なくとも僕はそう思った。それ以来、紅茶をはじめ、各種のお茶は信用できるルートで茶葉を買って自宅で飲むに限る、を実践しています。

そこで、気になる存在がチャイです。ダージリンを生み出す国、インドの国民的飲料。アッサム産やニルギリ産の茶葉をミルクとスパイスで煮だしてたっぷり砂糖を入れたあの飲み物です。言うなれば、インドが世界に誇るフレーバーティ。ダージリンティにほれ込んでしまった僕は、あのチャイをどう捉えたらいいんでしょう?

先週末、カレーイベントで出張した福岡の会場で、鹿児島でカレー店を営むシェフからこんな質問がありました。

「大阪のチャイって砂糖を別添えにする店が多いんですが、あれはなぜなんですか?」

そんなこと聞かないでよ~、知らないよ~。ちょっと困りましたが、僕なりに考えてみました。おそらく、どういうスタンスでチャイを出したいのかによって、砂糖を添えるか添えないかが決まるんでしょう。「お客さんが飲みたいチャイを提供したい」と思えば、砂糖は別添えになる。甘味はお客さんの好みにゆだねることになります。「お客さんに飲んでもらいたいチャイを提供したい」と思えば、砂糖はあらかじめ混ぜ合わせる。甘味は自分の好みに合わせることになります。その違いなんじゃないか。テーブルコショーを置くラーメン屋と置かないラーメン屋の違いという感じでしょうか。

お客さんにとって嬉しいのは前者ですね。人それぞれ理想の甘味は違いますから。ただ、その場合、ひとつだけリスクがあります。「私は甘さ控えめにするわ」と砂糖をほとんど入れずに飲んだときに、チャイがおいしくない可能性があるんです。チャイってやっぱりそれなりに甘味があって初めて成立する飲み物だと思います。だから、甘さを控えすぎたチャイをお客さんが自分の匙加減で作って飲んだとして、「ああ、この店のチャイ、おいしくないな」と思われてしまうリスクがある。危険、危険。そういうことなら、適性の甘味をあらかじめ作ってしまったほうがいいかもしれません。

そもそもインドのチャイというのは、あまり品質のよくない茶葉をおいしく飲むために苦肉の策で生み出したドリンクなんだと思います。だって、ダージリン産の上質な茶葉は、何もしないのが一番うまいわけですから。茶葉以外のフレーバーをつける時点で茶葉がおいしくないことは認めていることになる。しょうがやスパイスを入れてミルクで煮だして砂糖をたっぷり入れて……、そこまでして初めておいしく飲める茶葉がチャイに使われている茶葉なんです。

それはたいていCTCと呼ばれる製法で作られます。クラッシュ(C)、ティア―(T)、カール(C)。上質な茶葉は葉の形がしっかりしている。潰して切り刻んで丸めたりはしない。チャイという飲み物は、放置プレイでおいしく飲めるものではないんです。あ、そうか! だったらこうしたらどうですか。そのチャイが一番おいしくなる糖度を「〇〇度です」と作り手が指定して、その上で砂糖を別添えにしてチャイを提供する。ティースプーンと並べて糖度計を置いてね。これならお客さんも楽しめそう! どなたか、やってもらえませんかー?

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