15. おいしいカレーの“原材料”に隠された秘密は何か? 問題

カレーがおいしい、という感覚は千差万別なのでそこに至る正解を導き出すことは、きっと永遠にできません。ただ、人の好みはともかく、自分がどんなカレーをなぜおいしいと思うのか、どんなカレーのどの部分をおいしいと感じているのか、についてはわかるようになっておくといいと思います。

スーパーで食品を買い物をするとき、原材料を見たことがありますか? 僕は昔から食品の原材料をチェックするのが趣味です。食の安全なんかが叫ばれるずっと前から。関心があるのは、安全ではなく正体です。この食品は何でできているのか、何が入っていると自分はおいしいと感じるのか。ソーセージでも豆腐でもマヨネーズでも片っ端から裏をひっくり返して原材料を見ます。だから買い物にはすごく時間がかかるし、周囲からすれば変な客。でも、面白くてやめられないんです。そこで気になるのが、“カレーの原材料”です。市販の食品と違ってレシピは原材料を表記しなさい、というルールは存在しないんですね。すなわち、レシピには「おいしい秘密」が隠されていることになる。

たとえば、とあるチキンカレーAの材料がこうだったとします。

●カレーAの材料 …… 油、玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマト、スパイス、塩、鶏肉、水

とってもシンプルですね。スパイスを除けば8種類のものしか使われていない。インドの家庭で作られているカレーがこんなスタイルです(僕たちがインド料理店で食べているものはこんなに単純ではありません)。これで十分おいしい、と僕は思います。素材の味わいがスパイスで引き立ってスッキリと上品なおいしさがある。でも、たとえばこのカレーを食べた時、普段、レストランで食べるカレーや自宅で固形のルウで作るカレーと比べてもおいしい! と思う人は、感覚的に日本人の15%もいないんじゃないかと思います。なんか物足りない、味気ない、と思う人はきっと多い。そんなとき、たとえば、とあるチキンカレーBのように材料を少しアレンジします。

●カレーBの材料 → 油、玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマトケチャップ、スパイス、ウスターソース、鶏肉、コンソメスープ

レシピの表記としては、Aと同じくらいBもシンプルですね。AとBで何が変わったかわかりますか? 「トマト」の代わりに「トマトケチャップ」、「塩」のかわりに「ウスターソース」、「水」の代わりに「コンソメスープ」にしました。こうすることで、これも感覚値ですが、15%以下だったおいしいと思う人は、80%近くに増えるでしょう。AがイマイチなのにBがうまいんだとすれば、そこにどんな秘密が隠されているんでしょうか? 答えは、原材料にあります。

◆コンソメの素(味の素)の原材料 → 食塩、乳糖、砂糖、食用油脂、野菜エキス、でん粉、香辛料、酵母エキス、しょうゆ、ビーフエキス、チキンエキス、果糖、酵母エキス発酵調味料、調味料(アミノ酸等)、酸味料、(小麦粉を原材料の一部に含む)

◆トマトケチャップ(カゴメ)の原材料 →トマト、糖類(砂糖・ぶどう糖果糖液糖、ぶどう糖)、醸造酢、食塩、たまねぎ、香辛料

◆ウスターソース(ブルドッグソース)の原材料 → 野菜、果実(トマト、りんご、プルーン、にんじん、たまねぎ、あんず)、醸造酢、糖類(砂糖、ぶどう糖果糖液糖)、食塩、淡白加水分解物、コーンスターチ、香辛料、酵母エキス

仮にレシピの材料表記に「使っているものの“原材料”をすべて表記しなさい」というルールができたとしたら、大変な文字量になるでしょう。何をおいしいと感じるかは人それぞれで、そこには良いも悪いもありません。ただ、自分の味の好みを知ることは大事だと思います。最後に「新宿中村屋」が最近発売したレトルトカレーの原材料を紹介します。

◆純欧風ビーフカリー 芳醇リッチの原材料 → 真空調理ビーフ(牛肉、赤ワイン、その他)、ソテーオニオン(玉ねぎ、にんじん、ラード、その他)、マッシュルーム、デミグラスソース、トマトケチャップ、食用油脂(なたね油、牛脂、ラード)、デーツピューレ、ローストオニオン、砂糖、カレー粉、小麦粉、ビーフエキス、クリーム(乳製品)。ブイヨン、香辛料、食塩、赤ワイン、にんにく、フォンドボー、着色料(カラメル)、増粘剤(加工でん粉)、調味料(アミノ酸等)、pH調整剤、(原材料の一部に卵、大豆、鶏肉、豚肉、りんご、ゼラチンを含む)

何かを食べて「おいしい」と思ったら原材料をチェック。これは、誰かに知られると「ヤな奴だ」と思われてしまうかもしれません。こっそり独りで楽しんでください。

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