ブレンド

79. スパイスブレンドの黄金比は存在するのか? 問題 PART2

黄金比は、一定の法則によって導き出される比率だそうだ。それが最も美しいと言われているらしい。でも、誰が「美しい」と決めたのだろう? 誰かが美しいと判断していいのだとすれば、スパイスのブレンドにも“黄金比のようなもの”があるのかもしれない。

個人的な好みでいえば、たとえば、AIR SPICE「基本のチキンカレー」のミックス(多い順にコリアンダー、カルダモン、パプリカ、ターメリック、フェヌグリーク、ローステッドチリ)、AIR SPICE「わたしだけのカレー チキン」のミックス(多い順にコリアンダー、ローステッドクミン、ローステッドチリ、パプリカ、フェンネル、ブラックペッパー、ターメリック)などは、動かしようのない配合だと思う。

まあ、それが黄金比かどうかは置いておくとして、その手前の“一定の法則”というものを導き出せないだろうか。その昔、「カレーの教科書」という本を書いていたころからぼんやり描いていた構想がある。
正方形を書いて、その中を一定のルールに従って分割していく。できあがった箱の中に何かしらのルールに沿ってスパイスを当てはめていく。それらのスパイスを面積比率で配合したらいい香りになる、みたいなイメージだ。

正方形を半分にし、片方をさらに半分にし、その片方をさらに半分に……、といった具合に正方形の中に6本の線を引くと7つの箱ができる。たとえばこれが7種類のスパイスをブレンドするときの法則。文章で書くとややこしいが、図にすれば一目瞭然だ。
もっとシンプルに正方形を8等分したり9等分したり、ともかく正方形の美しい分割方法が決まれば、次はそこに当てはめていくスパイスを考えればいい。

第一歩として、正方形を4等分し、そこにランダムに4種類のスパイスを埋めていってブレンディングできるメソッドを開発できないだろうか。そんなことを考えている。ただし、どんなスパイスでも、というわけにはいかない。たとえば、シナモン、クローブ、ナツメグ、ホワイトペッパーの4種を同量混ぜられたら、それでおいしいカレーを作れる自信はない。
どのスパイスの中から選ぶのかが肝心だ。仮に、次の10種類を設定してみた。ターメリック、レッドチリ、クミン、コリアンダー、フェンネル、ブラックペッパー、パプリカ、フェヌグリーク、カルダモン、ガラムマサラ。ここにガラムマサラというすでにミックスされたスパイスが名を連ねるのは、ちょっと反則な気もするけれど。

実験してみる。適当な4種類を選んで大さじ1ずつ容器に入れ、混ぜ合わせて香りをチェックする。その香りを食べモノとは別の何かで表現してみたりして、それからどんなカレーにしたらおいしく理想かを議論するのだ。なかなか盛り上がる。
何かにたとえる、という作業が複数人数が集まってやると異様に盛り上がる。たとえば、「レッドチリ、クミン、カルダモン、ブラックペッパー」の4種をブレンドして香りについての印象をみんなで出し合う。それらを整理して最終的に「祭りの始まる前、灼熱の太陽に照らされたアスファルトの香り」などと表現する。もう一度みんなで香りをかいで、「わかる~」とか「わかんない~」とかやるのだ。

ばかばかしいけれど楽しい。「山を必死で登る機関車の油の香り」とか「NASAが開発した安眠枕の香り」とか言って盛り上がり、羽目を外し始めると「避暑地でしか出会えない金持ちの娘の香り」とか「君のことを思いながら歩く夕方6時の高円寺の香り」とか言い始め、めちゃくちゃになるのだけれど。しかし、どれも一様にいい香りがする。20種類近くをブレンドしたが、いい線いっているのだ。
ただし、10種類のスパイスからランダムに4種類を選ぶ組合せは、なんと210通りもあるという。すべてをチェックするには、これをあと10回やらなきゃならない。もう少し踏み込んだルールや手引きが必要になりそうだ。このプロジェクト、まだまだかかりそうだが、何かつかみかけている感触はある。しぶとく続けてみたい。

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