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75. おいしいカレーは本当においしいのだろうか? 問題

おいしいカレーを作りたいときっと誰もが思っている。カレーに興味を持っている人であれば。だから「正解がわかりません、正解を教えてください」という声をよくかけてもらう。まるで僕がおいしいカレーの正解をわかっているかのよう。そのたびに僕は、こう思う。「残念ながら僕には正解はわからない……」。だって、正解はその人の中にあるのだから。

それでも何か自分にできることはないだろうか。悩んだ末にたどり着いたのは、「僕自身の僕だけのおいしいカレー」をたったひとつだけ紹介することだった。

これまで僕は自分の好みを主張することをずっと避けてきた。「こんなカレーはいかがですか?」とか、「こういうカレーだったらおいしいと思ってくれるんじゃないかな」みたいなことをレシピでもイベントでも提案し続けてきた。「誰がなんと言おうと僕はこれがうまいと思う」というカレーを発表することにあまり興味がなかったのだ。人それぞれ好みは色々だから、と。
ただ、読者が「自分のおいしい」にたどり着くために、一度、「僕のおいしい」を徹底的にまるごと一冊かけて解説するのがいいかもしれない、と思ったのが、発売したばかりの新刊「わたしだけのおいしいカレーを作るために」である。

本書はエッセイが中心で、基本的にはおいしいカレーを作るためのテクニック論についてがメインだけれど、ちょっとしたエピソードや考え方的なことも書いている。そのひとつが、「おいしいってなんだろう?」というものだ。「おいしいカレーは本当においしいんだろうか?」と言い換えてもいい。
早川義夫さんというミュージシャンがかつて、「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」というタイトルのアルバムを出したことがあるが、あんな気分に近いのかもしれない。
常日頃から僕はそれを考えている。たとえば、イベントでカレーを作る時、できるだけおいしくなりすぎないように心がけている。ひと口目から「うまい!」みたいなインパクトよりも、時間の経過とともにジワジワと味わい深さが増すようなカレーを作りたいと思っている。

先週末、愛知で行われた森道市場の会場で、ステージトークにゲストで出演した。そのときも同じ話になった。ステージで話しながら、「食べたその日においしいカレーよりも、明日おいしいカレーのほうがいい」と持論を展開し、ふと思った。「明日おいしいカレー」が言葉としてわかりやすいかもしれない。そんなカレーをこれからも作り続けたい。

その後、僕はある打ち合わせで話していたら、同じ考え方の人がいることを教えてもらった。僕と同い年の友達(ミュージシャン)が、「おいしいカレーとは?」についてこう言ったそうだ。「渋谷で食べて渋谷でうまいカレーよりも、学芸大学あたりでうまいカレーのほうがいい」。時間軸でいえば、渋谷から学芸大学まで移動するのに30分~1時間ほどだとして、1時間後においしさをかみしめるカレーが彼の好みだということだ。僕は24時間後においしさをかみしめたい。言いたいことは同じだけれど表現が違う。

「明日おいしいカレー」よりも「学芸大学でおいしいカレー」のほうがなんだか素敵だ。くそー。僕は激しい敗北感を味わった。それにしても、カレーはおいしすぎないほうがいいだなんて、44歳という年齢のせいなのかもしれないな。

本書のタイトルは割と長いが、実はもっと長い言葉を準備していた。
「わたしだけのおいしいカレーを作るために、いま僕が伝えられるすべてのこと」
 読者に生まれる賛成も反対も共感も疑問も発見も刺激も何もかもが、「わたしだけのおいしいカレー」を見つけるためのいいキッカケになったらいいなと思う。

※いつも以上に中身のない話ですんません……

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