焦げカレー

113.素材を焦がしたらカレーはまずくなるのか? 問題

サバのみりん干しを焼くと、お腹の薄い部分が真黒く焦げることがある。あの焦げが割と好きだ。そういえば、小さいころ、トースターで焼いたコッペパンの真黒く焦げたてっぺんの部分も好きだった。焦げってまずいんだろうか?
カレーを作るとき、玉ねぎを焦がしてはいけないと僕らは聞いてきた。「焦がしてもいいくらいの気持ちできっちり火を入れてください」と今の僕は言っている。程度の問題もあるけれど、焦げるということがそれほどネガティブなものではないことは、もう知っている。焦げることを怖がって火入れが弱くなり、ぼやけた味のカレーにするくらいいなら、焦げることを恐れずに火を入れてメリハリの効いた味にしたほうがいい。

この点について、(僕の記憶が確かならば)自著『カレーの奥義』(NHK出版)の中で老舗カレー専門店「デリー」の田中社長と話したことがある。焦げには3段階あるという話だ。


1. 焦げ色がつく
2. 焦げ臭がつく
3. 焦げ味がつく

この3段階を見極めることが肝心じゃないか。1の前で止めるのか、1と2の間で止めるのか、2と3の間で止めるのかを作りたいカレーによって変えることができるのが理想的だ。ただ、今回、問題にしたいのは、さらにその先の話、3まで行ってしまったカレーについてである。

要するにカレーを作るために鍋に加える素材をわざと炭化するまで焦がしたとしたら、そのカレーは果たして本当にまずくなるのかどうかが知りたくなったのだ。もちろん程度の問題はあるから、真っ黒焦げになったカレーがおいしいはずはないが、「焦げてもまずくない」というネガティブなものではなく、「焦げたほうがおいしい」というカレーがあり得るんじゃないか。

先日、アウトドアでカレーを作る機会があったから、実験してみることにした。次に挙げる素材のそれぞれ5%程度を炭化するまで焦がしてみようと思ったのだ。

・玉ねぎ、にんにく、しょうが、トマト、しし唐、パウダースパイス

まず、玉ねぎは皮ごと炭火にくべて表面全体を真っ黒こげにした。中までキッチリ火が入るわけではないが、皮が外れてところどころが黒い状態で鍋に投入する。鍋の方が多めに加えた油で半切りにしたトマトを断面を下にして加え、焼く。ところどころ黒っぽくこんがりしたところで、ひっくり返す。一緒につぶしたにんにくとしょうがを加えたが、こちらはトマトの水分が邪魔して思うようには焦げてくれなかった。
しし唐は網焼きし、表面全体を真っ黒に。にんにく、しょうがに焼きが入らなかった分、ここで多めに焦がしてバランスを取る。ざっと混ぜ合わせたらパウダースパイスを加えて炒める。火力は強火のまま、焦げる直前まで炒め続けた。
当初の予定通り、すべての素材を5%まで焦がす、というわけにはいかなかったが、普通にカレーを作っていたら、「失敗したから作り直そう」と思ってもおかしくないくらいに“焦げ”を鍋に加えてカレーを作ったのである。

食べてみたが、とてもうまい。できあがった時点で香りがすでにおいしそうだった。ローステッドカレーパウダーを使うスリランカのカレーに似た風味がある。ココナッツミルクとパンダンリーフでも入ったら、スリランカ式チキンカレーである。
一緒にキャンプをしたメンバー数十人に食べてもらったが、「おいしい」という声はたくさん上がったが、「焦げ臭くてまずい」という声は聞かなかった。素材を焦がしてもカレーはまずくならない。それどころか、うまくいけばより美味しくなる可能性もある、ということだろう。

もしかしたら、焦がす程度だけでなく、焦がす素材にもよるのかもしれない。たとえば小麦粉の入った欧風カレーのようなものの場合、小麦粉を焦がしてしまったらさすがそれはまずくなりそうだ。小麦粉を使わず、スパイスで作るカレーについては、「焦げる」という現象をそれほど恐れなくてもいいのではないか、と改めて思った。
そこで、次にやりたいことができた。今回は、「素材を焦がしたカレーがうまかった」わけだけれど、「できあがったカレーを焦がしたら」どうなるんだろうか? 焦がしてカレーを作るのではなく、作ったカレーを焦がす。やってみたい。でも、カレーを焦がすって、どうやって焦がせばいいんだろうか……。

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