にんにく

81. にんにく5倍のカレーはどんな味になるのか? 問題

「たいていのカレーは、油とにんにくを増量すればおいしくなってしまうだろう」

僕は今年の新刊でそう書いた。こういう言い回しは実はとっても危険で、「たいていのカレーってどんなカレーなんだ?」とか「あなたの言うカレーって?」、「あなたのおいしいって?」などと突っ込みどころが満載。「そんなはずはない」とか「言い過ぎだ」とか「何もわかってない」とか言われてしまうかもしれない。

表現がよくないのかもしれないな、とは思う。特に「たいていの……」ってあたりが特に(笑)。そんなつもりはないけれど、普遍的なことを代表して言っているみたいなニュアンスが出てしまうからかな。ただ、長年、出張料理をし続けてきた僕の感覚値として、油とにんにくをいつもより多めに使うと食べてくれる人たちの反応が明らかによくなるなぁ、というのを実感している。どちらのアイテムもかなりの料理に暗躍していると言えるだろう。要するに、「にんにくってすごいよね」と僕は思っているのだ。

青森県の田子町へにんにくの収穫に行ってきた。田子のにんにくといえば、日本一と言っていいブランドだ。にんにく農家をしている友人(メイラード兄弟の種子くん)に誘ってもらい、世話になったお礼に夜、カレーを作ることにした。にんにくの収穫をした日に作るのだから、当然、にんにくカレーである。いい機会だから前から試してみたいことに挑戦した。

たっぷりとにんにくを使ってカレーを作ったら、おいしいカレーができるのだろうか?

たっぷりと、というのは、ちょっと引くくらいの量をイメージしている。自分の中の限界を超えてみようと思ったのだ。通常、僕の場合、4人分のカレーを作るときに使うにんにくは、大1片程度。その5倍ほどの量のにんにくを使ってみる。すなわち、4人分にたいして1株近くを使う。実際には1,000gの豚ひき肉を使って8人分のキーマカレーを作るために、大ぶりのにんにくを2株(12片程度)使うことにした。

問題は調理方法だ。みじん切りが好きだけれど、いつもと同じじゃつまらないから、丸のままのにんにくをたっぷりの油に加えて弱火で長時間、やわらかくなるまで煮た。木べらでつぶれるくらいまで柔らかくなったところでホールスパイスを投入。その後、にんにくがつぶれるまで加熱した。メイラード反応が欲しいなと思い、そこから火力を上げてこんがりさせていく。ところが、つぶれたにんにくがダマになりはじめ、うまくいかない。

別鍋で蒸し煮にしてつぶしたとろとろの玉ねぎを加えて混ぜ合わせていくが、にんにくのダマは完全にはほぐれない。仕方がないから、「得意の水を投入」することで鍋中全体を柔らかく溶かし、さらに過熱して脱水を進める。ほんのり色づいたところで別鍋で煮つぶしたトマトを加えてさらに炒めて脱水。それからパウダースパイスを加え、キーマカレーを仕上げた。

食べてみると、うまい。それほどにんにく臭が強くないのが不思議だ。それが調理方法のおかげだとしたら、どのプロセスがよかったのだろうか。にんにくというアイテムは、その強烈な香りが魅力なはずだけれど、それによって嫌われる場合もある。もし調理プロセスでその香りを和らげることができれば、存在感を消した上でカレーをおいしくするのに貢献できることになる。

にんにく臭をいいにんにくの香りに変換させる方法はあるのだろうか? にんにく臭をマスキングしてうま味だけを引き出せるスパイスがあるのだろうか? 今回、ローステッドクミンとローステッドチリを多用したが、そのあたりにヒントがるのかもしれない。そもそもにんにく臭とにんにくの香りとの境界線はどこにあるのだろうか。
「たいていの実験は、これといった答えを出せないまま終わってしまうだろう」
 そう、自虐的な発言に「たいていの……」を使うのは、きっと違和感ないんだろうなぁ。

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