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148.隠し味でカレーはどのくらい手抜きできるか? 問題

※新刊『スパイスカレードリル』発売記念・補講レッスン:隠し味

7つのテクニックで、とうたった新刊では、7つのうちのひとつとして、「隠し味」を挙げている。が、これは、はっきりとおかしい。だって、カレーに隠し味を使うのは僕からしたらテクニックではないからだ。だから、本の中でも隠し味についてはやけにテンションが低い。

それでも、一応、4種類の隠し味を紹介している。「だし」と「乳製品」と「甘み」と「発酵調味料」である。これらの“うま味”を加えるとカレーがおいしくなる。隠し味は手間を省くための道具だと僕は思う。本来なら手間をかけ、テクニックを駆使すればおいしくなるはずのカレーだが、それらを省略するためにいい働きをしてくれる。
だとしたら、具体的にどのくらいカレー作りを怠けられるのだろうか?
『スパイスカレードリル』の巻頭にあるチャレンジチキンカレーのレシピから、うま味を生むアイテム、玉ねぎとトマトを省略し、調理時間は10分と決め、火加減は強火のみとし、かなり適当にカレーを作ってみた。

●隠し味カレー
【材料・4人分】
紅花油 大さじ3
ホールスパイス 4g
にんにく(みじん切り) 1片
しょうが(みじん切り) 1片
鶏もも肉(皮を取り除く) 550g
マリネ用
 ・パウダースパイス 14g
 ・塩 小さじ1強
 ・プレーンヨーグルト 大さじ3(隠し味:乳製品)
マーマレード 大さじ1(隠し味:甘み)
味噌 小さじ1(隠し味:発酵調味料)
チキンブイヨン 200ml(隠し味:だし)
生クリーム 100ml(隠し味:乳製品)

【下準備】
鶏もも肉をひと口大に切り、マリネ用の材料を混ぜ合わせておく。

【作り方】
1. 鍋に油とホールスパイス、にんにく、しょうがを入れて強火にかけ、2分ほど炒める。(ここまで2分)

2. マリネした鶏肉を加え、マーマレードと味噌を加えてふたをし、強火のまま4分30秒ほど蒸し焼きにする。(ここまで6分30秒)

3. チキンブイヨンを注いで2分30秒ほど煮る。(ここまで9分)

4. 生クリームを加えて1分ほど煮る。(ここまで10分)

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結果は予想通り。とってもおいしいカレーになった。たいしたテクニックも使わず、10分でこんなにカレーがおいしくなるなら、「もうこの先のカレーライフはこれでいい」という人が出てきそうだ。来年は、「隠し味カレー」で一冊、本を作ろうかな。一部で盛り上がっている缶詰カレーみたいなものも、このスタイルと言えるかもしれない。

隠し味でカレーは簡略化された上にちゃんとおいしくなることが分かったのだから、実験としては成功である。とはいえ、僕はこの結果に悩んでしまう。隠し味でカレーをおいしくすることに抵抗があるからだ。
東京カリ~番長メンバー間では、15年以上前から「カレーをおいしくする4種の神器」というものがある。バター、にんにく、唐辛子、砂糖である。これらを追加するなり増量すると、たいていの人はうまいと言う。出張料理の経験からたどり着いたアイテムだ。じゃあ東京カリ~番長がこれらを多用しているのか、といえば、逆である。メンバー内では、これらを増量すると冷ややかな目で見られるのだ。「ああ、お前はそういうものでおいしくしようとするんだな……」と。
今でも僕は同じ感覚だ。隠し味でカレーがおいしくなるのは当たり前のことだから、できる限り使いたくない。おいしくなることが分かっているものを使うなんて、面白くないじゃないか。でもさ、おいしくなるんなら使えばいいじゃん。それで食べてくれる人が喜んでくれるんだから。もう一人の自分が「お前のポリシーなんか知らないよ」みたいな突っ込みを入れてくる。そうなんだよなぁ、とまた考える。

最近、このあたりのことを巡らせていて、ふと気が付いた。これって車の運転と同じじゃないか! 僕は車に興味がないし、運転も特に好きではない。だから、車種は問わないしオートマでいい。でも、車が好きで運転が好きな人は違う。マニュアル車に乗っている友人は何人か知っているし、運転中が最も心地よいというシェフ仲間もいる。
カレー作りについて言えば、隠し味を使うのはオートマを運転するようなものだ。でもなんかいやだ。車はオートマでいいくせにカレーには隠し味を使いたくない。カレーを作るときは突然、マニュアル車に乗りたくなるのだ。だって、「自分のテクニックでカレーをおいしくしているんだ」という実感こそがカレー作りの醍醐味なのだから。実力と関係ないものでおいしくなることが我慢できない。

どちらがいいとか悪いとかはない。ただ、どちらのタイプかによって提案すべきレシピの内容は変わるだろう。これからは、レシピを提案する前に尋ねなくちゃいけないな。
「あなたが取得したいカレー免許は、マニュアル? それともオートマ限定?」
答えが後者なら、教習所の水野先生は、生徒さんにあらゆるタイプの隠し味を授けることにしよう。


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