クスクス用ミックススパイスというのを見つけて、買ってみた。クスクスがそれほど好きでもないのに買ってしまっただけに使うのに困った。どうしようか。ふと、カレーにしてみるか、と思った。クスクスミックスでカレーを作る背徳感。クスクスはカレーなのか？　問題の始まりである。
オーソドックスな作り方で。にんにく、しょうが、玉ねぎを炒めてトマトを加え、クスクスミックスを加えて水と鶏肉を加えて煮込んだ。食べてみるとカレーの味がする。なるほど、クスクスはカレーだったか！　そこで終われば平和なヒトトキだが、そうはいかない。

まず、なぜあれがカレーになったのかを知りたくなる。クスクスミックスの袋に書かれた原材料をチェックする。

＊ クスクスミックス……ターメリック、コリアンダー、キャラウェイ、ガーリック、ブラックペッパー、塩

どの部分で僕はカレーを感じたのだろうか。答えは簡単だ。ターメリックとコリアンダー。さらに加えるならブラックペッパーあたりか。これならカレーになるのは納得だけれど、そうなってくるとクスクスってなんだ？　って疑問が沸いてくる。

かつて、麻婆豆腐がカレーなのかを検証した時にはそうはいかなかった。麻婆豆腐に使うスパイスでカレーを作ったが、味はハッキリと麻婆豆腐だったからだ。
　中国料理で使うミックススパイスに五香粉がある。これだって、カレーにはならない。似たようなものなら、ガラムマサラもそうだ。ガラムマサラだけでカレーにしようとしたら、ちょっと難しい。パンチフォロンというベンガル料理に使われるミックスがあるが、これもパウダースパイスがなければカレーにはなりにくい。

＊ 五香粉……クローブ、スターアニス、シナモン、チンピ、フェンネル
＊ ガラムマサラ……カルダモン、クローブ、シナモン、ビッグカルダモン、ブラックペッパー、クミン、コリアンダー
＊ 麻婆豆腐ミックス……ジンジャー、ガーリック、レッドチリ、花椒、
＊ パンチフォロン……マスタード、フェンネル、クミン、カロンジ、フェヌグリーク

こんなことを確かめていったい何になるんだろう？　とむなしくなってくる。クスクスミックスとその他のミックスとの違いは色々ある。明確に違う点がひとつある。クスクスミックスにあって、他のミックスにないもの。ターメリックだ。では、ターメリックが入れば、他のミックスでもカレーは作れるのだろうか。カレーと感じさせるのに必要な香りはターメリックだということなのだろうか。

先日、今年の新刊の撮影をした。その中でスリランカで使われるローステッドカレーパウダーの作り方を撮った。使用したスパイスは以下である。

＊ ローステッドカレーパウダー……クミン、コリアンダー、カルダモン、カレーリーフ、フェンネル、クローブ、シナモン、メース

ターメリックは、ない。が、このカレーパウダーを使って作るスリランカ式のカレーは、れっきとしたカレーである。では、カレーを作るときにターメリックは必ず必要になるわけではないことになる。
新刊では、スパイスのブレンディングメソッドを紹介することになっている。スパイスについて全く知識がなくても、誰でも簡単においしいカレーのブレンディングができてしまうメソッドだ。このメソッドの中でもターメリックのないブレンディングは数えきれないほど登場する。大事なのはどのスパイスを選ぶかだけでなく、どの比率で加えるべきか、だ。メソッドは完成している。でも、クスクスミックスがカレーになる理由までを解き明かすことはできていない。

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