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62. スパイスのブレンドを当てることはできるのか? 問題

カレーを食べたらそこに使われているスパイス、わかりますか?
これまで何度も聞かれた質問である。そのたびに僕は正直に答えることにしている。「わかりません」。特徴的なスパイスはわかる。ホールスパイスも形を見つけられればわかる。当たり前か。でも、粉状に挽いたパウダースパイスは、よほどクセのあるものか大量に入ってるものでない限り、わからない。たとえばそのカレーが南インドのカレーだったら、「ターメリック、レッドチリ、コリアンダーの3種ですかね」とか言っておけばたいていは当たるだろう。でも、「いや、4種類なんですよ」と言われたらもう自信がない。

30種類のスパイスを使ったカレー、と銘打たれたものだったら25種類くらいまでは当てることができそうだ。カレーを作るのに使うスパイスはそれほど多くないから、大事なものを上から20種類くらい挙げて残り10種類くらいをあてずっぽうに挙げれば半分の5種類くらいは当たりそう。
でも、10種類のスパイスを使ったカレーを食べて8種類を当てるのはかなり難しい。10種すべてを言い当てることができる人は、きっと世の中に一人もいないはずだ。腕利きのインド人シェフでも無理だと思う。

そのくらい、スパイスの香りは、ブレンドされ、他の食材と一緒に加熱されてカレーという料理に仕上がってしまうと推測するのが難しい。テレビなどで活躍しているラーメン評論家の友人は、「神の舌を持つ男」などと言われることがあるようだが(笑)、「神の鼻を持つ男」は存在しない。“神の鼻”も“鼻の神”も、そもそもカッコ悪い。

先日、僕が校長をつとめるカレーの学校の懇親会で、ゼミ生が何人かで興味深いクイズを出してくれた。AIR SPICEにブレンドされているスパイスを当てるクイズだ。目の前に7種類のポテトチップス(うすしお)が器に盛られて登場した。それぞれすべてフレーバーが違う。AIR SPICEの過去のバックナンバー(たとえば、ドライキーマとかアサリのカレーとか野菜の宝石カレーとか……)の中から7種類のミックスを選び出し、そのホールスパイスをミルサーで挽いて粉末にしてポテトチップスにふりかけたものだという。
手渡された紙には、スパイスセットの配合表が記されている(AIR SPICEでは商品パッケージにスパイスの配合をすべてグラム単位でオープンソースしている)。ポテチの香りをかぎ、食べ、手元の表と見比べながら「A、B、C……」を回答していく方式だ。

挑戦者は10人ほどいた。「開発者は全問正解に決まってるよ~」という声が会場のあちこちから上がる。「全問正解なんかするはずがない」と僕は心の中で思う。開発したのは自分だけれど、そのミックススパイスの香りをチェックして何のスパイスがどのくらい入っているかなんてわかるはずがないのだ。
一応、校長だし、開発者だし、と真剣にクイズに取りくんだ結果、なんと、僕だけが全問正解することができた。会場からは歓声が上がった。「すごい、やっぱりわかるんだ」と勘違いした人がいたかもしれないからここで言っておかなければならない。まぐれ当たりである。

スパイスのブレンドは楽しい。何十種類も混ぜたら香りは凡庸とするからつまらないけれど、10種類程度で個性を出しながら、組み合わせる食材の風味をイメージしながらラインナップや配合を決めていく作業はやめられない。そして、稀にできあがった香りにそこに使われていないはずの香りが漂ったりするときは、ミラクルが起こったときだ。
だから、“鼻の神”はいないけれど、“配合の神”はいるのかもしれない、と思う。

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