2. カレーの玉ねぎを細かく切る必要はあるのか? 問題

カレーを作るときに玉ねぎを炒めますよね。具として食べる玉ねぎは、くし形切りが定番ですが、アメ色とかになるまで炒めてベースにする場合は、たいてい、みじん切りかスライスにします。いままで僕は、あまり何も気にしないでみじん切りかスライスにしてきました。ところが、最近、この切り方に疑問を感じています。

カレー店のシェフたち10名以上と長い間、研究会を開いていますが、そこで結論が出ていないのは、玉ねぎをみじん切りにしたときとスライスにしたとき、加熱後に生まれる味わいや舌触りにどんな違いが出るのか、です。解明できません。加熱の具合や進行状況については、「カレーの教科書」という著書でこまかく写真で追いかけました。が、速度や食味にあまり変化はありませんでした。

すごく信頼している腕利きのインド人シェフに尋ねたことがあります。「玉ねぎなんて、どう切ったって、同じだよ」と言われました。まあ、インド人の感覚ではそうなりますね。その違いを気にする日本人シェフの感覚が理解できん! という感じだと思います。ただ、ここのインド人の反応には、2つの意味があると思っています。

1.頓着していない。気にしたことはない

2.切り方が違っても同じ味を出せる技術がある

前者じゃ話になりませんが、後者は格好いいですね。「弘法、筆を選ばず」ってやつでしょうか。

玉ねぎを細かく切るのは、玉ねぎに火を通しやすくするためだ、と安易に考えていました。でも、なんのために玉ねぎに火を通すのかを突き詰めていくと、(ここで詳しく書くスペースはありませんが)細かく切る必要はない、という結論にたどり着きそうです。

僕は、今、カレーを作るときに、かなり大きめのくし形切りにするようにしています。玉ねぎの表面を焼いてそこに生まれたうま味や引き立った甘味を溶け出させていく加熱の方法を取る。そうすると、それほど時間をかけずに玉ねぎはつぶれ、茶色く濁っていきます。やり方によっては、みじん切りやスライスよりも早くベースができあがる。これは新しい発見でした。

神保町の老舗カレー専門店「共栄堂」の宮川オーナーシェフは、玉ねぎを細かく切りません。理由は、「庖丁を入れる回数が多ければ多いほど、玉ねぎの風味は損なわれる」。確かにそういう観点もありますね。玉ねぎの切り方と加熱の方法は、本が一冊かけるくらい難解な問題だと思います。このことを突き詰めている最中の僕には、ぼんやり、次のテーマも見えてきています。

おいしいカレーを作るのにそもそも玉ねぎを炒める必要はあるのか? 問題。ま、これはまたいつか。


cakes連載「ファイナルカレー」第四回:
▶「 欧風カレー」の2つのポイント“香味ジュース”と“飴色玉ねぎ”

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