ヨーグルトカレー

77. ヨーグルトを10倍にしてもカレーはうまいのか? 問題

新刊「わたしだけのおいしいカレーを作るために」で致命的な誤植があった。レシピにあるプレーンヨーグルトの分量だ。「150g」のところを「1500g」してしまった。僕のミスである。発売当日に購入し、その日のうちにレシピを実践してくれた読者からの指摘で気がついた。なんとも情けないミスである。

本書はエッセイ本であり、紹介しているレシピは表紙の写真に使われている「水野仁輔だけのおいしいカレー」たったひとつだけ。たったひとつのレシピを間違えたのだ。致命的。さらに言えば、エッセイ本文の中で、僕は「レシピに書かれた分量を守ることは大事だ」と書いている。「なぜなら自分の中にモノサシができるからだ」と。そう書いておいて、肝心なレシピの分量を間違えているのだ。説得力が、ない……。

さらにもうひとつ、ミスが見つかった。鍋Bで蒸し煮~蒸し焼きにした玉ねぎをどこで使うのかが抜けている。鍋Aでとったスープと同じタイミングで鍋Cに投入しなければならない。こちらは、プロセスカットの方を見ると、「ああ、ここで加えるんだな」ということが推測できる。とはいえ致命的。さらに言えば、エッセイ本文の中で、僕は「玉ねぎは炒めないことにした」と書いて一定の読者を驚かせているのである。そう書いておいて、肝心なレシピで玉ねぎの投入タイミングについて触れていないのだ。説得力が、ない……。

穴があったら入りたい、というよりも、全国の書店を訪れて回収したい。件の読者は、「さすがにヨーグルト1500gは多いんじゃないか」と思い、1/3の500gを使用してカレーを作ってくれたのだそうだ。それでも僕が使ってほしい量の3倍以上である。いったいどんな味に仕上がったのだろうか。そこで、僕は実際に10倍量のヨーグルトでカレーを作ってみることにした。そう、誤植したレシピ通りに。

通称「水野カレー」のレシピでは、従来、提案してきたゴールデンルールを意図的に崩しているため、手順がスパイスカレーのオーソドックスなものとは違っている。にんにく、しょうが、ホールスパイス、鶏肉、パウダースパイス、トマトという変則的(?)な手順で材料を加えて加熱した後にヨーグルトを投入して混ぜ合わせる。傍らには1500gのヨーグルトがある。400gパックでおよそ4パック。6~7人分のレシピの10倍だから、当然だが、60人~70人分くらいのカレーを作る時に使う量だ。

躊躇はしたがドボドボと分量のヨーグルトを加えると鍋中は真っ白になった。恐る恐る混ぜながら加熱する。カレーの総量がかなり増えるから、その分、塩だけは多めに加えて調整しなければならない。出来上がってご飯にかけ、食べてみる。ん? 意外とイケる。もちろん僕の意図する味わいとはかけ離れているけれど。ヨーグルトカレーと名前を変えたほうがいいような味わいだが、「こういうものです」と言われて出てきたら、「これはこれでいいですね」という感想が出てきそうである。

なるほど、ヨーグルトを10倍量加えても、カレーとしては成立するんだな。結果的にはカレーに加えるヨーグルトの限界を知る貴重な体験となった。そういえば、本書では、玉ねぎの加熱について「あなたの焦げるは本当に焦げていますか?」と問いかけ、玉ねぎを焦がすのが怖いなら、一度、焦げるまで加熱してみればいいと提案している。アイルトンセナがブレーキングをギリギリまで我慢したように、自分の限界を知り、その限界を超える場所がどこにあるのかを経験することの大切さを書いている。そういう意味でいえば、ヨーグルト10倍のカレー作り体験も捨てたもんじゃない、かも?

いやぁ、詭弁だな。読者のみなさん、本当にすみませんでした……。

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