見出し画像

PIZZA OF DEATH RECORDSストリーミング配信開始に寄せて〜Hi-STANDARD「The GIft」レビュー〜

2020年4月20日、これまでストリーミング配信には消極的な姿勢を見せてきたPIZZA OF DEATH RECORDSがHi-STANDARDを含めてこれまでリリースしてきた全作品の配信を開始しました。

このニュースを受けて多くの人々がTwitterやInstergramで歓喜の声をあげていました(当然僕も!)が、その中でも2YOU MAGAZINE・柴山順次さんのこのツイートに胸が熱くなりました。

思えば2011年のHi-STANDARD活動再開に代表されるように、世の中が落ち込んでいる際には最高のパンクロックとサプライズでいつも音楽ファンを勇気付けてきてくれたPIZZA OF DEATH RECORDS。

Twitter含めて何度か書いていますが、今の僕があるのは2000年の夏に友人に連れられていった「AIR JAM 2000」で繰り広げられた数々のライブに心を撃ち抜かれたからです。

大好きなバンドは山ほど所属しているレーベルではありますが、その中でもやはり一番大きな影響と勇気を与えてくれたのがHi-STANDARDです。

そんな彼らの楽曲が全てストリーミングサービスで聞けること、そしてなによりも自分が作る様々なプレイリストに入れることができるのが嬉しくて仕方がありません。

そして毎回必ずサプライズを仕込んでくれる彼らは今回ももちろんやってくれました。2018年12月22日に横浜アリーナで行われた「THE GIFT EXTRA TOUR」の熱気をそのまま収録した初のライブアルバムのサプライズリリースです。

今回はこの喜びを表現するために、今は無くなってしまったブログメディアに掲載されてた「THE GIFT」リリース時のレビュー記事をnoteに転載しようと思います。

当時のHi-STANDARDの状況を踏まえたレビューを書いたつもりですので読んでいただけたら嬉しいです。

Hi-STANDARD「THE GIFT」リリースレビュー

「MAKING THE ROAD」以来、実に18年ぶりとなるHi-STANDARD(以下、ハイスタ)のアルバム「THE GIFT」が発売された。2000年8月、彼らの音楽に頭を金づちで殴られたような衝撃を受けて以来ずっと待ち続けてきた新作アルバムは、僕にとってまさしく“贈り物”のような作品だ。

◆アップデートされたハイスタ

(横山)「ALL GENERATIONS」の歌詞を聴いてもらいたいんだよ。“ハイスタ世代”って言葉が定着しちゃってるけど、冗談じゃねぇよ。「どんな世代も来い!」っていう感じ。
(難波)今好きになった子も、これから好きになる子も、みんなハイスタ世代だよ。よろしくね。
引用元:Hi-STANDARD 「The Gift」独占Special Interview!!

「THE GIFT」リリースにともなう公式独占インタビュー中の発言にもあるとおり、今作は90年代当時からハイスタをリアルタイムで追いかけてきたファンはもちろんのこと、フォロワーである若手バンドたちを介してハイスタに憧れを抱いてきた若い世代にまで届けられた”贈り物”だ。

そしてその贈り物は、彼らの新作を待ち望んできたファンを良い意味で裏切ることを狙ったかのような、まさに2017年の今を表現した作品に仕上がっている。

アルバムの構成から感じられるのは、(みんなが期待する)これまで通りの“尖ったパンクキッズとしてのハイスタ”から、様々なすれ違いから和解という意識の変化や各メンバーの10年以上に渡るソロ活動がフィードバックされて“人生の酸いも甘いも知って成長した大人のハイスタ”を1枚のアルバムを通して見せていこうとする意図だ。

冒頭に触れた、このアルバムを手に取る全ての世代が”ハイスタ世代”であるというメッセージをストレートに伝える「ALL GENERATIONS」から始まり、人は誰しもが各々に与えられたギフトを持って生まれてくるのでそれを誇って生きて欲しいという想いが込められたハイスタなりの応援歌である「The Gift」へと続く。この流れは「MAKING THE ROAD」の時代を感じさせる、僕らが待ち続けたあの頃のイメージだ。

SNSで今作の感想を見ていると、BPMが緩やかになる6曲目「My Girl」が今のハイスタを感じさせるキーソングという意見が多いようだが、個人的には5曲目「Time To Crow」こそがこれまでのハイスタから今のハイスタへの分岐点となる楽曲に感じられる。

一聴すると早さや比喩的な歌詞から当時のキッズさを感じさせるものの、この楽曲の特徴的なリフはギターの音の鳴り(響き)みたいなものをうまく引き出したものであり、ここ数年で箱モノギターに傾倒しロックンロールに立ち返ったアルバム「SENTIMENTAL TRASH」を完成させた横山健でなければ生み出せなかった、オールディーズを感じさせるものになっている(少なくても90年代のハイスタには出てこなかったフレーズに思える)。

結果として、この曲をブリッジにしてBPMが落ちつつもハイスタのエッセンスを失わない大人のパンクロックな楽曲たちへと耳とテンションがうまくフィットするようになっているのではないだろうか。

2011年の活動再開以降、長い時間をかけて少しずつバンドとしての感覚を取り戻してスタートラインに戻っただけでなく、バンドとしてのネクストステージに立つまでに至ったハイスタ。

「THE GIFT」は、現時点で最大限の熱量が詰まったアルバムであることは間違いないのだけれど、こと彼らに関していえばその後のライブをとおして一曲一曲をさらに磨き上げていくことが間違いない。そういった意味でもこれから始まるツアーを経て、このアルバムがどのように響くようになるのかが楽しみで仕方がない。

◆ハイスタ流のサプライズが考えさせてくれるもの

2015年に行った3本のライブ時に、『次は新作をリリースした上でステージに立ちたい』と言い続けてきた彼ら。

事前告知一切なしのシングル「ANOTHER STARTING LINE」(2016年10月5日発売)をサプライズリリースしてからちょうど1年後にあたる2017年10月4日にリリースされた今作もハイスタなりの遊び心に富んだ多くのサプライズが仕掛けられていた。

ひとつひとつの情報解禁について、”リアルで面白いことをやる⇨体験者各々が発信者として自らの感想を語る⇨SNSでバズる”という自分自身の感覚や感想をシェアして個々人が繋がっていく、SNSの原点みたいなものに立ち返った手法を取っていったハイスタ。

活動休止前から『面白いことは現場で起きている』というスタンスで在り続けた彼らにとっては当たり前のことかもしれないが、結果として2017年の今それをやること自体が新しいし、なによりこれらのアイデア出しをメンバーだけでなくPIZZA OF DEATH Recordsのスタッフから上がってきたということがとても面白く思う。

この時点でも充分みんなを喜ばせくれたのに、きわめつけはアルバムリリースに合わせて活動休止前のラストライブとなる「AIR JAM 2000」でのライブをノーカットでDVDリリースするサプライズまで仕掛ける手の込みよう。

活動休止前最後のライブを新作と同時リリースすることにより今と昔を地続きにしてファンを喜ばせ、一方で今のハイスタは単に昔の焼き直しでなく活動休止後の17年間でメンバーが個々に行ってきた活動がフィードバックされた新しいハイスタなのだということを実感させたいという意図なのではないだろうか。

一方で、「ANOTHER STARTING LINE」から続く一連の現場(主にレコードショップ)を重視した販売方法は、ショップの数が極端に少なくなっている地方在住者にとっては、どんなに欲しくても手に入れることが難しいという問題も指摘されている。

現状、通販やDL販売にて対応をすることで日本全国どこでも手に入れられるような状況はできているものの、サプライズの体験性は感じることができないことは否めない。

僕個人としては、CDが売れずレコードショップが消えつつある現状に対して今あるレコードショップに足を向かせようとするハイスタチームの姿勢はとてもカッコよく思う(実際、ハイスタの作品リリースをきっかけに久しぶりにレコードショップへ足を運んだ人も少なくないのではないだろうか)。

ただ、欲を言えば次なる一手としてレコードショップがなくなってしまった音楽ファンたちのために何ができるかをハイスタチームには考えて実行して欲しいし、なにか面白い打開策を打ち出してくれるのはないだろうかと期待をしてしまわずにはいられない。

レジェンドバンドが当時の名声に乗っかってただ活動再開したのではなく、作品自体のみならずその販促方法も現役最前線のバンドと同様、フレッシュさを感じさせ続けているハイスタ。キッズをわくわくさせ続けてくれる彼らの活動を今後も目を見開いて追いかけていきたい。



基本的に全文無料で公開していますが面白かったと思って頂きましたらお願いします。書籍や音源購入、子供や猫たちのグッズ購入に使用させて頂きます。