見出し画像

#33 ”寛容”が”肝要”

”寛容”(かんよう)という言葉を聞くと,二つ思い浮かびます.ひとつは”古代ローマ帝国”,もうひとつは”テーブル・マナー”です.

 一つ目は,私のお気に入りの作家 塩野七生さんの『ローマ人の物語』シリーズで繰り返し出てくる言葉「寛容」clementiaです.相手を認め・許し・受け入れるその”太っ腹”なココロです.(ただし,何でもかんでも受けているわけではありません.)ローマが長く繁栄を保つことができたのは,この寛容が大きかったようです.例えば,暦はエジプトから太陽暦(ユリウス暦)を取り入れ,ギリシアからは多くの学問知識を吸収しました.単に取り入れるだけでなく,アテネやスパルタのような都市国家の優れた面と同時にマイナス面を改良して自分たちに合わせて取り入れていました.(何事も,正しい判断と柔軟性が大切ですね.)

 もう一つの”寛容”で思い浮かぶのは,就職してすぐに参加した「テーブル・マナー講習会」です.洋食のナイフ・フォークの”練習ジム”に行く気軽な気分で行ってみたところ,食事が出る前の講師の先生が「これから説明するのは,みんなが気分よく食べるためのマナーであってルールではありません.”あの人,マナーを知らない!”などと言わないことが”マナー”です.」と言われて,(この先生,いい事イゥナァー)と思いました.テーブル・マナーの一番大切な中心に”寛容”がありました.

 先生の話は続き,「テーブルの上には,お店の方のオモテナシが置いてあります.ナイフ・フォークは,出される料理の順番に置いてあります.外側からフツウに順番にとっていけばよいように,お店のスタッフからの心配りです.」と言われ,(ナァーアルホォドー).スプーンやフォークの形の違いを一生懸命探して,暗記しなくていいんだ.(学習と同じですね.暗記ではなく,ルールを見つけて使っているとそのうちに身につく.極意なぁーり.)

 そう言えば,以前スペインを学会発表で訪れたとき、オープンテラスのお店に入ろうとして値段が高いか迷っていたら,「ナイフとフォークの本数を数えたらお店の料理の値段がわかるヨ」と教えてもらいました.いろんな料理を出そうとしているお店は,予めナイフ・フォークがたくさん並んでいて,客の注文によって使わないものを片付けてくれます.やはり,あのテーブルマナー講習会で習ったように,外側から順にとっていけば,料理がフツウに食べれます.お店によっては,注文後に並べてくれるところもありますが,歩道から見えるオープンテラスでは,たくさん並んだナイフ・フォークは,お店のランク・”格”をアピールできる看板のようなものなのかもしれません.同じように,夜になってテーブルにロウソク・キャンドルが置いてあるお店は,たぶん料金が高いお店です.(もちろん例外はあります).日本人には夕食でロウソクを灯(とも)して食べる習慣がないと思いますが,欧米ではフォーマルなスタイルで,お店の”格”をアピールします.

 テーブル・マナー講習会で教えてもらった中でもう一つ役に立ち続けている知識は,膝の上に置く布についてです.「広げてしまうと,もし膝の上に何か物を落としたり,ちょっと口の周りを少しふき取りたい時に不便でしょ.二つ折りにして膝の上に置いていれば,ずり落ちたりしにくいし,もし汚れても内側に折り返せば汚れが見えなくてスマートですよね.使いやすいように,開いた側を自分の方に向けておきます.もし指先が汚れたら,さぁっと内側を使いぬぐえば,外からの見た目もきれいでしょ.」と言われ,ナァールホド.(だからいつも自分の膝の上から,ずるりと落ちて”行方不明”になっていたのか.)あれから,いつも膝の上で二つ折りになっている布は,落ちることはありません.

 前回行列のことについて書きました.(https://note.com/aito_suzuka/n/na5d37f5f288a)もしあのテーブルマナー講習会の先生が,「上から3列目?,右から2行目?」と誰かが言っても,きっとニコニコ笑っていると思います.数学的には間違っていても,日常生活なら相手に理解してもらえるので問題ありません.(もしかしたらあの先生の寛容が体からあふれ出ていたのは,古代ローマ人の子孫だったりして,,.)

 日本語には大切さを表す幾つもの言葉があります.「重要」よりも「肝要」の方が、より”重要”だそうです。肝要の”肝”(キモ)は、肝臓(レバー)ことで重要な臓器の中の一つです。扇(おうぎ)の骨組みがバラバラにならないように束ねている要(かなめ)はとても大切です。「肝」と「要」という大切なものふたつ重なった「肝要」なので、大切+大切=とっても大切 になり重要よりも,より”重要”なのもうなずけます。

 古代ローマ帝国の”寛容”さは、国を束ねる”要”として”肝要”でした。また,肝(レバー)料理は出ないかもしれないけれど,テーブルマナーで”肝要”なのは「人前で注意しない”寛容さ”」.「ちょっと、あなたこれイカンヨウ」とは言わないこと。...  (アレェッ?)今日は調子が悪い? (いつも悪い?)...  これは、どうも肝(キモ)より大切なものを忘れたらしい。... 「何を?」「そりゃぁ、決まってるじゃないか。」「こころ」「心臓かい?」「両方だよ。」... 「それ、何て言うんだい?」「肝心(かんじん)だよ。」「あー、なるほど」と感心(かんしん)...  お後がよろしいようで。

(写真: フォークのギザギザがついているのがテーブルの一番内側にあるので,たぶん最後にお肉料理が出たのだと思います.最初にビールで乾杯したので,覚えていません.笑)