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『ぐりとぐら(選んだのは青い子篇)』

★絵本シェルフ★

『ぐりとぐら(選んだのは青い子篇)』


ときどき、お母さんやお父さんへ向けて、時間に関する変更をお願いすることがあります。

 今日の授業、30分前倒しにしても大丈夫ですか?

 すみません! 1時間遅らせてもらっても大丈夫ですか?

塾の時間に関する連絡は、あとから確認できるよう、通常LINEでやりとりしてます。だけどこの日はメディアとして『絵手紙風メモ』を選択しました。

「ねぇ、お母さん、好きなキャラクターいる?」

私が虹色きらら(5年生 女の子)に聞くと、

「お母さん? あ、ママはええと・・・」

少女はキラキラしたうす茶色の瞳を左上方へ向けて考えて「うん」と力強く頷いたのに、出てきた言葉は自信なさげでした。

「たぶん……たしか、『ぐりとぐら』が好き」

『ぐりとぐら』が好き。

そのトーンには

「『ぐりとぐら』って知ってますか?」

というニュアンスはかけらもなく、少女の中では『ぐりとぐら』はすでに「誰でも知っている前提」になっていた。

『ぐりとぐら』

その呪文のようなタイトルの本に、私は小学校1年生のとき図書館で出会いました。自分が読めた、数少ない本。当時の私の状況を絵本口調でいうならば……学校の図書館はそれはりっぱな図書館で、そこに胸を張って目立つ場所にならんでいる「ちゃんとした本」たちは、入学したばかりのぴかぴかのマコトくんの目には、ちょっと恐いお兄さんたちに映ったのです。

私はパソコンで『ぐりとぐら』の参照画像を検索して、ペンと色えんぴつで模写しました。

あの頃……

絵本一択で、字というよりは絵ばかり眺めていた子が、こうやって塾の先生をやって子どもたちに教えている。小学校ってなんだかやだなぁ、こわいところだなぁと不安になりながら、『ぐりとぐら』の楽しげな世界をぼんやり見ていた子が、先生になってその絵を描いている。

もう、30年以上の時が流れているんだ。

目の前の11歳の女の子も、この先たくさんの時間を旅していく。30年たっても、きっと絵本たちのやさしさは覚えている。あざやかな赤い子と青い子は、ずっとかわらないままだ。

イラスト入りのメモが3分くらいで完成。「×ボタン」をクリックして、画像をシャットダウン。

そして。

これもときどきあることですが、パソコンを閉じたあとにすぐ、調べ事が追加で発生。私は「青い帽子の子」だけを描いたけれど、こまったことに、それが「ぐり」なのか「ぐら」なのかわからないのです。

「あのさ、これ、ぐりかな? それともぐらかな?」

「え? わからない」

「ぐりかな」

「うーん、でも、ちょっとぐらっぽい」

「どこが?」

「わかんないけど、たぶんぐらじゃないかなぁ」

調べればすぐにわかるんだけれど、電源は落としたばかりだし、なんだか調べたくない気分だった。迷った私は、青い子のイラストにこう書き添えた。

『ぐりかぐら』より

『赤い子篇』はこちら(2017/04/03)

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