両国ロケット ベルギーくん飛躍篇
こんにちは! 藍澤誠です。
2019年3月のトライの1つ目として、工場見学に行くというものがありました。
第一志望の高校に推薦合格した中3ベルギーくん。東京都の高校受験には『推薦入学』というシステムがあり、作文と面接、集団討論の3項目で合否を決める試験が毎年1月の末日に実施されるのですが、ベルギーくんは2018年12月の時点でその推薦試験の受験を渋っていました。
というのも、彼は他者とのコミュニケーションが得意ではなく(基本的に無口)、さらに作文が大の苦手と自己分析していたからです。
コミュニケーションが得意ではない、という点においては、基本的に私の塾は対話を重ねていくので、『いざとなれば問題ない』というレベルに達するであろうことは、早い段階で見込めました。
問題は作文に対する苦手意識です。作文ギライを克服するには、まずは量をこなすべきと思い、一般の受験勉強と並行してほぼ毎日作文のトレーニングもしていました。
すると――
なんと入試の作文で『100点』!
ベルギーくん、すごいです。
私は「量」重視のトレーニングを課したつもりでしたが、ベルギーくんは「質」の方に着目していたようで、それが功を奏しました。
私は気づかなかったのですが、彼の長所は作文のパターンを作り上げるのが上手という点にあったのです。毎回、毎回、笑っちゃうくらい同じパターンに持っていくのです。
まず冒頭で
と作者の意見や一般な解決策に同意を寄せてから
というように、その意見を別角度からとらえる。そして
と体験談を持ち出す。それを具体的に述べた後に
と主張をまとめ、最後の段落で
というように、抱負を述べて締めくくる。
こういうパターン化を何度も何度も繰り返していました。国語は得意じゃないので言葉の使い方に微妙な箇所がときどきみられるものの、展開については職人芸のようでした(笑)
そんな彼は作文ギライを克服し、見事推薦試験に合格したは良いのですが・・・
高校に合格したら安心してしまう or 気合が入らないことはよくある事態で、ベルギーくんは作文の中で「将来は文具メーカーで働きたい」と掲げていたものの、受験後の2019年2月中3最後の段階で、具体的なアクションは少しも起こせずにいました。満点だった入試の作文には、いろいろ力強いことを書いていたのに・・・
このままの生活スタイルでは、高校にふわっと入り、勉強と部活の毎日をこなし、高校3年生くらいから受験勉強を始め、大学に進学し、就職活動・・・という展開が、いちばんありそうな将来として描けるね、という話になりました。
では、打破するためにはどうすればいいか。
クリエイティブ&アクティブな子は別として、15歳の少年には、自力で次の展開へもっていくのは難しい。
そこで私は2つの提案をしました。
1つはTEDで『モノづくり』に携わっている人たちの動画を見て、どのような問題意識を持っているかを確認する。もう一つは、東京は下町の工場で行われるワークショップに参加するというものです。
まずTEDの方は、植松努さんの動画を見ました。
かなりヤル気が高まったところで、2019年3月15日土曜日、工場のワークショップへ参加しました。
このワークショップは『山と水の図工室』というユニットの主催でした。対象は小学生から大人までで、東京は両国にある『東北紙業社』に集まり、業務で余った紙の材料を使って、それぞれが好きなものを創作するというイベントです。
主催している山ウッチと水のっちは、図工の先生をしている男女2人組です。先生という呼ばれ方がキライなので、山ウッチと水のっちとここでは書きます。お二人は、子どもたちに図工を教えっぱなしにするのではなく、アートを通じて大人と子ども、個人と地域が寄り添い、助け合っていける社会を創造しようとしています。
こうしたイベントに参加することで、工場はどんなところなのか、そこで働いている人たちはどんな思いでいるのか。工場が直面している問題、そしてそれをどう乗り切ろうとしているのかを学ぶのが目的です。文房具やアートが好きな人たちは、どのような活動をしているのか。自分はそうした人たちにどのように関わることができるのか。そうしたヒントを探しに行きました。
イベント参加の前に、まず私がベルギーくんに最初にやってもらったのは「目的地までのルートを決めて、集合時間を提案する」というものです。
しかし・・・ベルギーくんは地理に疎く、普通にいくと1時間弱なのに、埼玉経由でバスも使う、2時間ルートを提案してきました(笑)こういうのも勉強ですね。さらに、工場がある両国が相撲の町であるということも知りませんでした。うーん。相撲なんて、中学生の視野に入って来ませんよね。高校では自分の関心の範囲を広げていこうね、という話になりました。
というわけで、イベント開始時刻より30分早く到着する乗り継ぎを提案し、両国界隈を案内するところから始めました。
力士たちはみんな大阪場所に行ってしまい、閑散としています。しかもどんよりとした曇り空。
芥川龍之介の石碑も見ました。『杜子春』です。私が書いた小説、『ヴィンセント海馬』でも触れたので感慨深かったです。
いよいよ工場に到着。
ワークショップのスケジュールは以下の通り。
まず丸いCDのような厚紙で名札を創りました。両国にちなんで相撲系にしようか迷いましたが、5円玉モチーフにしました。
どうして『五円玉モチーフ』かというと、去年知り合ったNさんが奈良でGOENという無料のサッカースクールを運営していたのですが、大変難しい状況に置かれてしまい・・・そんなNさんを間接的に励ます目的でした。
また写真に映っている馬とUFOのアクセサリーは、調布のマーケットで買った、手作り作家さんたちの作品です。
「自分で作ってみると、周りの物のすごさがわかりますね」
とベルギーくんも感想を漏らしていましたが、創作してた人にしかわからないことってありますね。
そんなベルギーくんは、紙工場なのに木製の本棚を創っていました。しかも電動ノコギリやドリルを使った本格的な物。紙の工作は混んでいたから木にしたそうです。しかも穴の位置を一つ一つ丁寧に定規で測って決めていく。工場のKさんも、ベルギーくんの丁寧な仕事ぶりを評価してくれました。こういう活動を通して、人の信頼を得たり、人とつながって行ったりして欲しいです。
私が創ったのはパレットです。
絵具部分はいろいろな種類の紙です。つるつるしていたり、ざらざらしていたり、紙の手触りを楽しみたくなる。モチーフは、府中市美術館のキャラクター『むら田』くんが頭に乗せているパレットです。
むら田くんの目は、福笑いのように動かせます。参加者に子どもが多いことを踏まえて、ちょい遊び心を。このパレット自体は『山と水の図工室』の受付のところに設置するオブジェのイメージで製作し、実際プレゼントしました。指を入れる穴の部分に日付けやイベントタイトルをいれられる仕様です。
山ウッチのロゴマークである▲と水のっちの〇を乗せて完成です。
私は不器用&雑なので、この作品をさらに水のっち、山うっちに完成させてほしいです的なノリだったのですが、私自身は、0から1を創るのは得意なのですが、1を10までもっていくのは苦手。あとは得意な人に任せて・・・と思ったのですが、ベルギーくんの作文のように、苦手というのは思い込みで、慣れていなかっただけかもしれません。
図工や美術以外で初めて物を創った
最後にベルギーくんは嬉しそうに言っていました。創作がベースにある生活はすごく楽しいし、広がりがあるのだということを、私自身も理解しました。
こういう日がスペシャルな日ではなく、すごく当たり前、日常である――そう言える日々を積み重ねているうちに、気づいたら飛躍しているのがベストなのかもしれません。
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