諸行無常の鐘

諸行無常の鐘が聞こえる

本記事は、米国オレゴン州ポートランドを中心に毎月発行されている日系紙「夕焼け新聞」に連載中のコラム『第8スタジオ』からの転載(加筆含む)です。
本記事は、1記事150円。マガジンでご購入いただきますと600円買い切りとなり(これまでの記事もこれからの記事もすべて読めます)、お得です。

「一月往ぬる、二月逃げる、三月去る」とはよくいったもので、この季節の、時の経過の早いこと早いこと。寝たと思ったらもう朝だ、寝たと思ったらもう朝だ、その繰り返し。日も長くなって日中の活動時間も長くなって、夜更かしよろしく寝る時間も後ろ倒しになって、生活のリズムを整える、というのはなんと難しいのでしょう。健康で文化的な生活の遠いこと遠いこと。これぞ永遠の課題。

二月の、ある昼下がりの午後。まるで奇跡みたいなことが起きました。カフェでティーラテを頼んだ帰り道、飲み物を持ちながらでは難しかったので、車の屋根の上にちょんと置いて、子どものチャイルドシートのベルトをつけていたら、なんとそのまま忘れて発車。

自宅まで車を走らせ、駐車場に着いてしまった。

「ああ、喉かわいた。なんか飲みたい。そうだ、さっき買ったティーラテが…」と車内のドリンクホルダーに手を伸ばしても、ない。どこ行った?と探していたら、はたと気がつく。

「げげ、もしかしてぇーー。やばいっ!!」
 顔面蒼白。慌てて外に飛び出ました。

はたして、ティーラテは車の上部にちょこんと乗っかったままでした。

寸分違わず落ちてもおらず、こぼれてもおらず。
こんなことってあるんだろうか??

 車体を、茶色の液体がどろどろと汚し、その姿は既になくなっていると思ったのに。

うちの駐車場は地下二階だから、車はそこそこのアップダウンを経験せずには自宅に帰れない。液体は三分の二くらい入っていたけれど、途中、たぷんたぷんと揺れながら、行きつ戻りつ、九死に一生を得たのか。わからない。なんでなのかまったくわからないけれども、車を拭き掃除しなくて済んだ。

これは事実。すばらしい事実。
ああ、ありがたやありがたや。

そしてわたしは、何事もなかったかのように残ったティーラテを美味しく美味しく飲み干したのでした。誰しも マ・サ・カ!と思う出来事の一つや二つあるでしょうが、わたしがこの一年過ごしたなかで「これぞ奇跡!」と思った出来事はこれ。これにまさる奇跡はオモイアタラナイ。

非常に小さいみみっちい、吹けば飛ぶような出来事なんだけれども、なぜか妙に心に残る。そんなことで日常って構成されてますよねぇ。旅行のような大型な思い出の反芻よりも、そういうことで日常は彩られている。

パブリックのキンダーに通う長女の学校で、通常の紙ベースの宿題とは別に、オンラインの宿題が始まりました。

オンラインで宿題!
新しいぞ!
我々の時代にはなかったぞ!
そして毎週出るぞ!
母は覚束ないぞ!

時代は確実にデジタルに移行しているな、と感じます。

それともここがアメリカだから、その流れが、導入が、早いのでしょうか。
早い、ということは、そのうちに世界の潮流も(言わずもがな日本も)この流れに飲み込まれていく運命にあるのでしょうか。

ここから先は

1,853字
この記事のみ ¥ 150

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?