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夫のテレビ出演後「妻はサポート役」だと決めつけられたことへの疲労と違和感

本記事は、米国オレゴン州ポートランドを中心に毎月発行されている日系紙「夕焼け新聞」に連載中のコラム『第8スタジオ』からの転載(加筆含む)です。1記事150円~200円。マガジンでご購入いただきますと600円買い切りとなり(マガジンご購入者は過去の記事もこれからの記事もすべて読めます)、お得です。ひと月に一度のペースで配信されます。
本記事は、本来ならば3月中に配信すべきところ、4月配信となってしまいましたこと、お詫び申し上げます。

テレビ朝日の「あいつ今何してる?」というバラエティ番組が毎週水曜日午後7時のゴールデンタイムに放送されているらしいが(日本での話です)、紆余曲折あって、この番組に夫が出演することになった。

放送日は2月20日で既に放送済みである。

アメリカに在住して且つ見た方はほとんどいないだろうが、このご時世、探せばネットに落ちているだろう。ただ、アップされては消えていくので、時を捉えなければ見る機会を逃す可能性が高い。

この番組は、芸能人が、かつての同級生が今どうしているのかを気にして(という体裁をとって)、番組スタッフがその本人に会いに行くというもの。

夫の出演することになった回はスピンオフで、名門校といわれる高校を訪ね、そこで長く勤務している先生に「印象に残っている生徒はいますか。その生徒は天才ですか、奇才ですか」と問い、そこで名前が挙がった生徒に番組スタッフが実際に会いに行き(それが日本の裏側でも)、そのさまをネプチューン(お笑い芸人)をはじめ、芸能人やタレントが見てコメントするというものであった。

2月20日放送分に関しては、ネプチューンのほか、カズレーザーというお笑い芸人(令和でたちまち時の人となった)や、タレントの高橋英樹が出演している。

1時間の番組で、夫の尺におよそ30分がさかれており(そんなにさいてよかったのだろうか)、彼の来し方がうまくまとめられ、プロが寝る間を惜しんで、労力と体力と知力を結集して作っただけのことはあり(番組で実際に扱われた素材の3倍以上の資料を提出した夫も頑張ったとは思う、その大半は使われないのにそれでも必要なのだ)、良い出来だった。

彼らは視聴率をとるために必死である。血まなこである(かつて放送局に勤めていたので非常によくわかる)。

それはどういうことかというと、出演者のために作らず番組の質の向上(つまり視聴率獲得)のために作っているということである。

今回でいうと、夫のために作ったのではないということが実はポイントで、ひいてはそれが番組の信頼となる。

考えてもみてほしい。なぜ自費出版の本に魅了されるものが少ないかというと(言わずもがなもちろんすべてではないです)、それはお金を出した人の満足のために作られることが大半で(例えばお年寄りへの「あなたの自伝書きますよ」という類のモノ)、そこには第三者の厳しい目が介在しないからだ。

厳しい目が介在しなければ、いい本は生まれない。

テレビ朝日の人は、夫の満足のためにこの番組を作っているわけではなく(当然夫はお金を出して自分のために作ってほしいと頼んだわけではないのだから)、多数の視聴者がいいと思ってくれるものを作るために必死なのである。これがプロの番組作りのすごいところで、それによって、番組のレベルはぐんぐん上がる。もちろんそこに嘘はあってはならないのだから必死である。徹底的に調べ、徹底的に編集し、徹底的にわかりやすくする。

今回何がラッキーだったかというと、夫は期せずして、自分のポートフォリオをプロの集団に、第三者の目を介在させ(結果的に)作ってもらったということに尽きるだろう。今後彼が、自分を紹介するとき、「これを見て下さい」といえば物事は途端にスムーズになると思う。

私たちは同じ高校の同級生夫婦でもあるので、母校の先輩後輩、実際にはお会いしたことのない人までも、同窓のテレビ出演に沸き立ってくれ(我が母校がテレビに出る!というのは嬉しいものらしい)、長らく交流のなかった人からもこれをきっかけに連絡や番組感想をもらったりもした。大変ありがたかった。

そしてそこにはおそらく妻であるわたしへの配慮から「旦那さんの活躍がさぞかし誇らしいでしょう」「家族のサポートあってこそですね」というものもあり、それを目にするたび、わたしは少々複雑な思いになるのであった。

もちろん大前提として嬉しい。彼の来し方を知っているからこそ、そこにまつわる苦労や壁や苦みを本人には遠く及ばないが見てきたわけだから、彼のやりたいことが今やれていて本当に嬉しい。

けれども、彼は彼であって、わたしではないのだし、彼の功績がわたしの功績ではないのだし、例えばわたしが彼だったとしてテレビに出演した側だった場合、夫は果たして「あなたのサポートのおかげですね」と言われたりするのだろうかと考えてしまう。

妻はサポートすべきもの、という社会の風潮も、正直うっとうしい。

妻は夫を輝かせるために存在してんじゃないけどね、と嫌味の一つも言いたくなる。こういう風に考えるわたしは、自分をこじらせているのだろうか。

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夫婦というのは百組あれば百組なりのあり方というのがあり、私たちの場合、同級生であることも影響してか、ライバルというところも正直ある。

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