見出し画像

非武装地帯

まだ韓国滞在歴が浅い頃、DMZツアーに参加したことがある。展望台から北朝鮮を眺め、かつて北朝鮮人民軍が掘った地下道にもぐる、というものだ。
展望台は映画パッチギにも出てくる歌のタイトルになっているイムジン河を超えたところにある。この川が事実上の国境線みたいなものである。トラ展望台には望遠鏡があり、うまく行けば北朝鮮の人民の生活を垣間見ることができる。休戦中とはいえ戦争中の敵国を呑気に見ているのはおかしなことであるが、そこには戦争の最前線だという緊張感もあった。
地下道は人民軍がソウルに侵攻するために人力で掘ったものである。結局はソウルに至る寸前で韓国軍がその存在に気づき、大事には至らなかったとのこと。その後、一部区間が封鎖され、観光スポットになっている。私達はヘルメットをかぶり、トロッコ列車みたいなやつに乗って地下道の中に降りていった。人ひとりが少しかがんでようやく歩けるくらいの幅のトンネルが続いている。これを重機なしで掘り進んだなんて、気が遠くなるような作業だ。当然、途中事故などが起こって怪我人や死亡者が出てもおかしくないだろう。ただ、その詳細は北朝鮮の知るところなので、知る術はない。
非武装地帯に行く途中のバスでガイドさんに言われた言葉を思い出す。それは、道路の各所に設置された謎のミニトンネルについて。それはたった2〜3メートルほどのトンネル。そこにはダイナマイトが設置されていて、有事の際に道路を爆破して、北朝鮮の戦車が南下してこられないようにするというもの。その装置は一般市民が住んでいる地域まで続いている。今でもたまにそのあたりを通るとき、今有事になったら北側に取り残されるのかな、と少し不安になる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?