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とりどりブレスレット

少し寒いけれど、春の訪れを感じさせるような優しい日差し。今日は2ヶ月半ぶりに美容院に行った。何度か通っている、コインランドリーに併設されたシンプルで可愛らしい雰囲気の美容院だ。

担当してくれたのは、かなり年上の女性の方だった。多分初めてお会いしたであろう彼女は、パッと見で言ってしまえば、ショートカットのふくよかなおばちゃん、という感じ。

だが、私は徐々に彼女の持つ魅力に惹かれていった。それは、おばちゃんらしく母親のような元気をくれる、とかそういう感じではなくて、エネルギーを秘めた強い女性を感じさせる魅力だった。

美しかった。きっとそれは、内面と外見が統合した魅力だった。

髪をカットされている間、私はその女性の腕につけられたブレスレットから目が離せなかった。色とりどりで形も様々な天然石が連なったブレスレットだった。ネイビーに近い紫、桜のようなピンク、マーブル模様の入った淡いブルーに、透明の地にかすかな金色が見える不思議な雰囲気の玉。まん丸い玉、楕円形の玉、凹凸のある玉。連なる石たちは全て違う顔をしていた。統一感なんてない。なのに全て合わさると、調和のとれた強い引力をもつ。

彼女のつけているアクセサリーはそのブレスレット1つのみだった。それがとてもよく彼女に似合っていて、多分身につける人によっては野暮ったく見えてしまう感じが、一切なかった。過度じゃなく、光っていた。彼女とブレスレットが一緒になって輝いていたともいえる。

ブレスレットは何故あれほど彼女に似合っていたのか。一言で言ってしまうなら、単におしゃれな人だからだろうか。年齢相応、でもどこか個性的な若さが漂うファッションとも良く合っていた。

勝手に感じた彼女の内面の雰囲気は、元気を秘めたやさしい静かさをぎゅっとした感じ。私が眠そうな客だったからか、特段何か話しかけてくることもなかった。そういう関係だからこそ彼女は不思議な魅力を纏って見えたのだろうか。

美容院を出る頃には、彼女はただのおばちゃん、とはもう思えなかった。

あのブレスレットを身につけていたから魅力的に見えたのか、彼女自体の魅力があのブレスレットに詰まっていたのかどうなのかは分からない。

ただ私を惹きつけて、また会えたらいいなと思わせる何かがあった。

もし次お店に行った時にあのブレスレットをつけた彼女が私の担当をしてくださったら、「そのブレスレット素敵です、似合ってます」と言えたらいいな。今日は勇気が出なかったけれど。

個性的なものがぎゅっと詰まって、美しいバランスを作り出している感じ。その感じが私は猛烈に好きなんだと思う。そして1人でそれを体現できるのは一段と素敵だなと感じる。見た目も中身もいろんなものが詰まった唯一無二の人間になりたい。それも、ごちゃごちゃせずに上手に個性が混ざり合った彼女のような。整然と並ぶのではなく、美しく混ざり合う感じがいい。

帰り道、あんなブレスレットが似合う大人になりたいなと考えながら、わくわく嬉々と自転車を漕いだ。

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