見出し画像

「ま、人生どう転んでも」 創作

「じゃ、俺が帰国したら住処提供してよ」
「は、どういうこと?」
「家賃半分払うから、一緒に住まわせて」
「ぬぬ。家賃はんぶん・・・それは大きいかも」
「ま、前向きに検討でよろしく」

 高校の時に付き合っていた元彼であり、ダチ。
お互い恋人がいない時には、たまに電話をしたり、ご飯に行ったりしている。ぶっ飛んだ話もできるし、何気ない悩みも吐き出せるから都合がいい。お互いに恋愛感情はないけど、ないからこそ、なんだかんだ居心地がいい。
今は彼がヨーロッパに留学中で、度々異国の面白い話を聞かせて貰えるのが密かな楽しみだ。向こうは今は猛暑がひどいらしい。

そんな彼から思わぬ提案をされた。付き合ってもいないのに一緒に住むってどうなんだろう。まあでも、今私に恋人はいないし、恋愛をする気もない。家賃と水道光熱費半分なんて、フリーターの私には好条件すぎる。

「じゃあ、契約しようか。お触り禁止を約束で」
後日そんな風に言ってみた。すると、彼はまあ俺は車でも寝れるからOKだよと。いや、車で寝る?それは違うんじゃない。車嫌いの私は、車の中の空気を想像して吐きそうだ。

「えー朝隣に居てくれる人が欲しいんだけど。だから一緒に寝てよ」
「一緒に寝てお触り禁止は、ちょっとな。キッチンとシャワーと洗濯機使えれば俺はいいから」

「んーーまあ、そっか。じゃあ、でも、さすがに家の中で寝てよね」
「まあまあ。OK。何かあったら俺出てくし」
「お互いストレス抱えすぎて喧嘩するかも知れないしね」
「まあそこは歩み寄りっしょ」

 その後、生活で絶対に譲れないところなんかをお互い共有しあった。
なんだこれ、ちょっと夫婦みたいじゃん。少しワクワクしている自分がいる。もう恋愛には疲れたし、そういうのもいいかもしれない。もしかしたらまた恋が芽生えたりなんかしちゃって。

みたいなことも私は無意識に彼に話していたみたいで、彼は「ないない、それはさすがにないと思うわ」とあっさり返してきた。なんだよ。まあ、私もないと思う。彼との新たな化学反応が想像できない。というか、どういう風に仲良くなるか想像できてしまうから、面白くない。なんて言ったらちょっと冷たいけど、彼と恋愛はなんか違う、というのが今の私の考えだ。

男と女ってなんだ?なんだろう。私は、男女の友情は成り立つ派だけど、それは、異性だからこそ居心地がいい何かがあるからだ。まあチャラい人は論外だけど、女友達よりも男友達の方がなんか気楽だと感じることもよくある。

きっと私の中では、どこか女友達の方が格上というか、大事にしなくてはいけない、と思いすぎている節もあるかもしれない。とかなんとか一応同性に嫌われないよう良いように言ってみる。実際そうではある。でもどこかでは、異性との恋愛に満たない程度のふんわり交流が癖になっているんだとも思う。そう、つまり、男友達は気楽なだけじゃなくて、適度な刺激を受け取っているってこと。それが好きな人だったら、また少し違う。

いや、そんなことより、同居だ同居。
そもそも私は、いつからか同性の友達すら家にあげることができなくなっている。それに、人間ムリムリ期間というのが定期的にきて、どんなに仲のいい人でも口をききたくなくなる時がある。

時に他人を拒絶したくなる自分が誰かと同居なんて、ムリだ。いや、そうずっと思ってはいた。でもなんでそんな契約をしてしまったのか。まあ、彼は気心知れた友人だし、何かあったら追い出すか、出て行くかすればいいんだから、ものは試しだ。

人と一緒に生活することで私も一歩成長できるかもしれない。でもそういう意気込みが私をまた少しうんざりさせる。

「帰国までの数ヶ月でどっちかに恋人できたらこの話は白紙だね」
「そりゃ、まあそうだね」
「うん。じゃあ私彼氏作らないどくわ」
「いや、作れよ。まあ俺が彼女作るわ」
「どうぞ~作ってください。全力で」

彼と同居することになれば、ある意味安心だなとも思うし、「他人と同居」という意味ではハードだなとも思う。んーそれとも、私がいつか本当に好きな人と一緒に住む時のための練習になったり?でも、そんな扱いなんかおかしいよな。第一、一緒に生活するだけで、恋だろうが友情だろうが愛だろうが、思い出はできてしまう。

んーなんかでも、私はやっぱり、ちゃんと好きな人と恋がしたい。
出会いを探そうか?でも疲れるよね。

でも今は、どう転んでも楽しそうかも。
電話を切った後、シャワーを浴びながら色んな可能性を想像した。
シャワーの設定一度下げとけば良かったなぁと思いつつ、肌に叩きつける熱いお湯が私を高揚させる。なんだかぞくっと身震い。

ま、だいたい現実は想像の斜め上をいく。と思う。
というか、そうであって欲しい。

シャワーで曇りを流した鏡に向かって、満面の笑みを作ってみた。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?