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紙のみぞ知る

引っ越すにあたり断捨離をしたのだけれど、自分が溜め込んできた記録媒体、とりわけ紙(漫画・小説・雑誌・詩集・画集etc)とCD、DVDの量には我ながら恐れ慄いた。大型の段ボールで8箱。1000冊と1000枚を下らなかった。一体全体どのようにしてそれだけの量を確保していたのかは我がことながら皆目見当もつかないし、それら大量の記録媒体を綺麗さっぱり処分するという判断に”至極あっさりと”思い至れたのも不思議だった。

物だけでなく、物に対する執着ごと、綺麗に捨て去れたとでも言うべきか。「せっかくこんなに集めたのに」や「掛かったお金を考えたら」といった気持ちは少しも沸いて来なかった。そういう観念は理解はできるし、自分も以前は確かに持っていたはずのものなのだけれど、どうにも『引っ越し先には今まで持っていたものをなるべく持っていきたくない』という気持ちで居た。要らない、と。今の自分に必要なものではない、と。
なお、人から譲り受けたものについては、その限りではない。

大半は欲しがってくれた友人・知人に贈答するなどした。大切に育てた我が子を新しい飼い主に委ねるようで気持ちの座りは今ひとつだけれど。残りは、そこそこの引っ越し資金へと変貌を遂げてくれた。思い出だけは連れて行く。

断捨離BGMはU2の『All That You Can’t Leave Behind(置き去りにできないすべてのもの)』なので皮肉がふんだんに効いている。

音作りと同じで、引き算の理論。身軽で居たければ、余計なものは削ぎ落としていく。足りていないものよりも、要らないものを減らしていく。
自分が思っている以上に必要なものは足りているし、自分が思っている以上に要らないものを抱え込み過ぎている。

僕はミニマリストでなければダンシャラー(3秒で思いついた造語)でもないので「これだけは捨てずに持っていこう」と引き連れることにしたものたちもいくつかある。

間違いなく人生で一番読み返した、たびたび名前を挙げる『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』であるとか(ちなみにハルキストではない)、これまで参加してきたレコーディング音源、映像作品、取材してもらった雑誌類、ファンからもらった手紙やプレゼントであるとか、昨今のサブスク配信リストから漏れ続けている「権利関係があやふやなため現存する物理媒体以外に視聴手段がない作品」であるとか。

『世界の終り〜』に至っては上下巻が4セット分ある。これはツアーの旅先でもふと読みたくなって古書店で買い直したりしたため。アメリカやイギリスにも持っていった。

ほかアルフォンス・ミュシャのタロットカード、天野喜孝とベクシンスキーの画集、九龍城砦の写真集、らき☆すたのトランプ、迷宮物語のVHSなど。取り合わせが奇妙過ぎる。さながら癖強めのスマブラといった様相を呈している。

きょうび漫画やラノベ、小説に関してはiPadが一枚あれば事足りてしまう。CDだってiTunesやクラウドに突っ込んでしまえば終わり。映画やアニメもだいたいはサブスクで観られる。本はインクの匂い、手触り、装丁なども含めて楽しむ総合芸術ではあるので、そういった情報性を自分の中から消し去りたくないために『世界の終り〜』一冊に全てを託したような気もする。

大量の段ボールを前にして「いる?いらない?」を延々繰り返していた折、昔大好きだったコント番組『笑う犬』シリーズの小須田部長を思い出して一人でゲラゲラ笑ったりもしていた。覚えてる人いるかなぁ。

頑張れ。負けんな。力の限り生きてやれ。

至言である。哀惜の念を禁じ得ない。


閑話休題。

なんとか無事に昨日から新居にログインして都民一年生と相成ったわけだけれど、やれどもやれども荷解きが終わらず、部屋を段ボールが埋め尽くしている。段ボールと共に眠りにつき、段ボールと共に朝日を浴びた。
今朝は段ボールに囲まれた状態で煙草を吸い、段ボール達を掻い潜ってシャワーを浴び、段ボール達を眺めながら朝食を摂った。
一見みんな同じに見える段ボールにも、くたびれて倒れている子、めちゃめちゃに破り割かれている子、開封を今か今かと待ち侘びている子、色んな子がいる。
もういっそ顔でも描いてやろうか。『キャストアウェイ』のバレーボールのウィルソンみたいに愛着が湧く気がする。

車のリアガラスに貼るステッカー”赤ちゃんが乗っています”よろしく、自分も玄関に貼り付けてもいいかも知れない。

『段ボールと暮らしています』

入居初日からホームレス宣言。背理法が過ぎる。

生憎一人で暮らしていくつもりで部屋を借りたので、早々にご退場いただきたい。みんなどうしてるんだこれ。合間を縫ってやるしかないのか。

何はともあれ読者諸賢、今日も1日お疲れ様でした。
僕も仕事を終えたら、段ボールが待つ家に帰ります。

読んでくれてありがとう。


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