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【ショートショート】撃ち合い。

薄暗い暗闇の中、緊迫した空気が張り詰めている。
先ほどまで、確かにそこに感じた気配は消え失せ、なりを潜めている。

思わず、その場で息を潜める。
次に、どちらかが相手方の姿を捉えた時に、一触即発の事態になることは目に見えていた。
そう思うと、不用意にその場から動くことはできなかった。

それにしても、何故ここに現れたのか。
この後、この場で重要な取引を控えていたが、誰にも口外していない。
約束のブツを受け取れた後、自分はそれを持って海外に飛ばないといけない。
取引の時間は25時、それまでにこの状況を何とか打破しないといけない。


最悪の場合、相手を始末してでも。
できればこの手が汚れるようなことはしたくないが、この場に居合わせられてしまったからには仕方ない。

いつでも撃てるようにと、手元でその存在を確かめる。
引き金の位置を確認し、人差し指をかけて構える。

重苦しい沈黙が、周囲を包む。
暗闇に目が慣れたのか、腕時計の文字盤が見える。

24時50分を指している。
もう時間が無い。

こちらから仕掛けたくなったが、姿を確認できていない状況では
不毛な打ち合いになることは目に見えていた。


ふと、物陰から出てくる相手の気配を感じ取った。
思わず、引き金にかけている指に力が入る。

刹那、どこからか明かりが射し
確かに相手が目の前に居ることをこの目で捉えた。



…もとい、自分が部屋の電気を点けたのだが。


思い切り引き金を引く。
殺虫剤の噴射口は、確かに、物陰から出てきたGを捕らえていた。


夜遅くに帰宅。
部屋に入って電気を点けようとした瞬間、うっすら黒い影が横切るのが目に入ってしまった。

偶然にも、部屋の入り口近くに殺虫剤を置いていたので、暗がりの中でもすぐに手に取れた。
Gは明るい場所を嫌う習性があるそうなので、うかつに部屋の明かりを点けることもできなかった。

やはり、久々に見かけると、一匹退治するだけでも緊迫感が漂う。


後処理を済ませる。
できればこの手が汚れるようなことはしたくなかった…と思いながら。

約束の25時までに、パソコンを起動し、ウェブサイトを開くことはできた。
現地との時差があるから、日本ではこんな時間から一般販売開始なのか…と思いつつ、大好きなアーティストが出演する、海外の音楽フェスのチケットを買った。

「ご購入が完了しました」という意の英文が、画面に表示された。
取引完了。
初の海外遠征が楽しみだ。

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