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「ラーメンズ」のおはなし。

『肩書きから「パフォーマー」をはずしました。』

それは、昼下がりの微睡みに支配された自分に手向けられるには、あまりにも衝撃的すぎた一文。


ラーメンズ・小林賢太郎さんの芸能界引退。
全ての表舞台から引退し、今後は執筆活動といった裏方として活躍されていくのだという。

大学進学とともに上京して以来、自分がひそかに、ほのかに抱いていた
「ラーメンズの単独公演を生で観たい」という夢も、果たされぬまま終わった。


自分がはじめてラーメンズを知ったのは、中学2年生ぐらいの頃。
当時は「エンタの神様」をはじめとした、若手芸人のネタ見せ番組がブームだった頃だが
自分はその時代の潮流に逆行するように、ひと昔前(1990年代後半)のお笑いに興味を持っていた。

そんな中、ふとした時にレンタルビデオ店で見つけた「爆笑オンエアバトル ラーメンズ」のDVD。
ラーメンズって、なんか聞いたことあるコンビ名だな…見てみよう、と思いレンタル。
お2人が「オンバト」で活躍していたのは、番組開始間もない1999~2001年頃で
DVDにもその頃放送されたネタが収録されており、当時の自分の興味にも合致していた。
これが、一番最初の出会い。

いざ観てみると…
読書をする2人が、自分の読む作品の面白さを誇張したくて徐々に嘘の内容ばかり読み上げていく「読書対決」や、
ホ○ネタや薬物ネタなどが色々際どい「ブラザー」「にっぽん語」…などなど
コントの設定の面白さや、2人の演じる役柄の面白さにすごく惹かれたのを覚えている。
当時の自分はその全てを理解できていなかったけれど、後々「あのやり取りはそういうことだったのか」といった具合に
自分が成長するにつれて、真意が紐解かれていく面白さもあった。

同じ時期にリリースされた、ラーメンズの単独公演「ALICE」のDVDにも興味を持った。
当時の財力じゃ手が出なかったので、親にせがんで買ってもらい。
「オンバト」と同じようなコントが観られると思っていたが、全く違った。

「コント」というよりも、「舞台」を見ているようだった。

当時の自分は、ネタ番組で披露される4~5分尺ぐらいのコントしか観たことがなく
ドッカンドッカン笑いが起こるほど良いコント、と思っていた。

それとは真逆で、10~20分ほど長尺の時間をじっくり使って
世界観や登場人物のキャラ、関係性を綿密に描いていき
その中で起こる可笑しさ、後味残るような笑いを生み出していく…
「お笑い」「コント」という括りに入れるのは、ちょっと違うのかもしれないけれど
「こんな表現もあるんだ」という気づきがあった。
その次公演の「TEXT」と併せて、これは自分の中でかなり印象深い作品。

その後、単独公演の脚本を「戯曲集」という形で本にした「小林賢太郎 戯曲集」を片っ端から読んだり
レンタルビデオ店で単独公演のDVDを借りてきては観て…を繰り返して。
緻密な脚本や演技で構成されるストーリーの中に垣間見える、バカバカしさがどうにもこうにも好きだった。


思い出話はこんなところにして…
やっぱりラーメンズといえば「千葉滋賀佐賀」で広く認知されているのかなと思うのですが
それだけに留まらないラーメンズの作品、自分が好きなモノをいくつかご紹介させてください。

◆日本語学校アメリカン

ラーメンズの「バカバカしい」笑いが前面に出ている「日本語学校」シリーズ(これの「イタリアン」バージョンがあの「千葉滋賀佐賀」の元ネタ)。
単なる人名を少し変えて、アメリカンなテンションで読み上げていくのが何故こうも笑いに繋がるのか。このお2人は耳に残るフレーズやリズムを生み出すのが凄く上手だな、と思わされます。
最終的にはただ歌い踊るバカ2人になるのも愛すべき点。

◆ドラマチックカウント

お2人の発想力に脱帽するしかない作品。
10数える間に、四季を言う間に、50音を読み上げる間に完結しているストーリー。
数字や四季の呼び名、50音の読み方はこれらのストーリーのために決められたんじゃないか…?と思うような鮮やかさがあります。

◆バニー部

単独公演でおなじみの、「一方が勝手に暴走して、もう一方がずっと黙っている」作品。
片桐さんの「ギリジン」のイメージが強いですが、それと対をなすような小林さんの「大吟醸」もなかなか…。
途中でアドリブも交えつつ演じるその姿には、無表情を貫く片桐さんをなんとしてでも笑わせたい…という一心が現れているように見えます。
ある意味、お2人の「素」が感じ取れるシリーズだと思います。

◆採集

「なぜか怖かったネタ」としても、度々語り草に挙がる作品。
中盤ぐらいまでは、剽軽な小林さんの一人芝居が笑いを誘いますが、「あるもの」を見つけた瞬間、自分の置かれた状況に対する全ての点と点が繋がって…!という、伏線を回収していく中で増大していく怖さがなんとも言えない作品。
時間は26分とかなり長めですが、最初から最後まで通して観てほしいです。

◆銀河鉄道の夜のような夜

「銀河鉄道の夜」がモチーフ。
「コント」ではなく、完全に「芝居」に振り切った作品だなと思います。終盤の切ない2人の芝居がなんとも言えない哀愁を誘います。
この作品は、さっきも挙げた単独公演「TEXT」の一番最後に披露されたものです。
この作品だけ観るときっと、(特に後半のほうとか)どういう構成になっているの?と疑問に思うかもしれませんが、それを紐解くヒントは、実は先に披露してきた作品の中にあって…という、かなり重厚な造りになっています。
そのため、できれば「TEXT」を一度通しで観てほしいな…なんて思いがあります。


今思うと、これらの作品を無償で公開したのも、その頃にはすでに引退を固めつつあったことも関係しているのかな…なんて感じられてしまう。
それにしてもここまで書いてきて、やっぱり、自分の思う「面白い」に影響を与えた人たちだなぁと思います。
お2人の作品に出逢えたことは、自分にとってプラスでしかなかったです。
「ラーメンズ」としての新しい作品はもう観られないかもしれないけど、お2人がそれぞれの分野でこれからも新しい作品を想像されていくことを願ってやみません。
数々の素敵な作品を世に届けてくれて、どうも有難うございました。


…あー。
でもやっぱり「美大じじい」なんてワード出されちゃったら、後ろ髪を引かれるよなぁ…

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