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見送る背中を

明日ママ帰り遅い?

ううん
今日は特別遅かっただけ。明日は普通だよ。
なんで?

あのさ、明日、見送ってほしい。

え?夜行バを?

うん

次女は地方の街づくりの実践をインターンで体験するために
一人夜行バスで旅に出る
二週間くらい前の週末に一緒に発着場所の下見にも行ったから
場所が分からないとか物理的な話じゃないとしたら
気持ちの問題。心細いのだろうなと思った。

いいよ。
紙テープ持ってポーって汽笛鳴らせばいいかな。
サルビア丸みたいにさ

サルビア丸って何?

サルビア丸はさ、竹芝桟橋から出発する八丈島へ向かう船の名前だよ。
いいよね南国的なネーミングがさ

アタシ、船じゃないよ。
夜行バ。

うん、知ってる。

そういえば色々と見送ってきた。
小学生の時に初めてスキー合宿に行った時も
上野駅の上越新幹線のホームで
小さな紅葉みたいな手が揺ら揺ら振られるのを
見えなくなるまで見送って
ああ二泊三日が永遠の別れみたいだと大袈裟に涙ぐんだことを思い出す。

仕事をしていたから一緒に居られる時間は短くて
東北の震災の時もお迎えに行くのが園で一番遅くて
赤毛の顔を見てギャン泣きしたから
ああトラウマにならなきゃいいなと思いながら連れて帰ったけど

できるだけ甘やかして育てようと思ってきた
甘やかすと甘えるは違うとか
そういう字面であげつらうみたいなことには興味はない
忙しくてどうやったって物理的にはかまってあげられないし
一緒に居られる時間も短いんだから
幼ごころに我慢することが多いに決まってると

だから

そうして欲しいと思うときに
そう言えるような親でいようと思った
遠慮して子供の方から言いたいことを
引っ込めてしまうような子にはしたくない
自分がガッツリそうだったから笑
共働き夫婦の長女ってそういう能力に長けてしまう

だから共通テストのときにも会場入りする長女も次女も
仕事には遅刻して見送った
人生の分かれ道に立つ子にしてあげられるのは見送ることだけ
こっから先は一人で行くしかないんだよと
誰も代わってくれない戦いに挑むのは自分一人なんやでと
手なんか振らなかったな二人とも
凍るような、いや、どっちだろう
燃えるような眼差しを一瞬向けただけだった

インターンでは初めての土地に、
初めましての人達の中に
一人で入っていくのだから
最後のバスに乗り込むところは誰かに見送られたいと
誰かに言えることでそのあとは頑張れるのなら
仕事から走って帰って、急いで夕飯を食べさせて
夜の帳のスッカリ降りた街に
ゴロゴロスーツケースの音を響かせて
家路を急ぐ人の流れに逆らって
愛しい娘を見送るくらいお安い御用だ笑笑

誰かに自分を預けて甘えられるということは
裏を返せば
誰かに寄りかかられたときに受け止める柔らかさを持てることだし
自立の一歩は依存から始まると思うし
誰にも寄りかからずに立てる人はいない

いいなあママもインターン行きたいよお

ダメだよママは
頑張って稼がないと(ニコ笑)

う、うん涙
頑張るよママ
明日も仕事行くでー

見送ったお母さんは若干迷子になりながら
来た道をひとりで引き返して
旅路の無事を祈って手を合わせていることなんか
もう到着して新しい世界線を見ている彼女の眼には
映らない未読スルーなLINEだけど苦笑 

もちろんそれでいいのだ

旅といえばJourneyでしょう笑
胸熱くする曲を次女に届けと貼りつける




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