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理屈と屁理屈

まだ春浅い頃
ふたりでシャワーを浴びる
水音は音消し
デカい声出しても
ボロアパートの隣人に聞こえぬよう

聞こえたやろな笑

浴室の外はまだ寒い
手早く肌についた水滴を
ワイパーのように拭ってくれる彼

気化熱で体温奪われるからね
うん
流石は院進、物理学部
確かフラーレンチューブの研究してたなあ
チコにフラーレンなんて笑ってたけど
フラレタノハ赤毛の方やったやんか苦笑

出会ったのは冬だった

雪が降れば
なぜ雪が白く見えるかを

なぜ雪の日は音が少ないと感じるかを

太郎と次郎の屋根に降り積む雪を思いながら
文学部の赤毛はうっとり彼の話を聞いていた

お風呂のフックの吸盤が外れてしまうと
ちょっと水で濡らして
ギュッと押し付けた

だから
チコのあそこも濡れているから
ぎゅっとピッタリくっつくんだと

なんのエロさもなく
サラリと
生理現象と物理現象を語るから

オマタがジョワンとしたまま云十年

理屈に弱い苦笑

入社して彼がコードを書いた新製品が
発売されたときにも
自宅に買い揃えた皿うどんシステムじゃなかった
サラウンドシステムに囲まれて
青いソファに座って
音の伝播のことを
教えてもらったと思うんだけど

ど文系だから
今思い出して
人に伝えれるほどは理解してるわけがない笑

ただ耳に残るのは
低い音と高い音
四方八方から囲まれる
音の層の中で
トランクスみたいなサラサラロン毛の
彼のシャンプーの匂い
赤いVO5だったかな笑
エメロンじゃあなかったと思う笑

エメロン知ってたら昭和確定です笑

理路整然と竹を割ったみたいに
起承転結、因果応報
世界を説明してくれることに
ウットリして
フウウン!っていつも聞いていた

ハタチの頃から
イキリ散らしてたわけじゃないみたいね赤毛も笑

初恋は結構甘酸っぱい

相模ナンバーの車をみて
相撲ナンバーだと笑い合ったり

狭い部屋でふたり毛布に包まって
マイケル・ジャクソンの
ヒール・ザ・ワールドを聞いてるうちに
気づけば互いを癒やし始めたり

ラッシュ時の相模線の車中で
お互いのGパンのポケットに手を入れて抱きしめあって
これはもう電車が混んでるのがイケないんですうって
オマエラクッツキスギやろって笑

あの頃は二人はアロンアルファでピッタリくっついて永遠に離れることはないと思ってたんだけどな

多分お父さんにスキルス癌が見つかって
僅か半年も経たずに亡くなられてから
何かが彼の中で変わったんだと思う

今の赤毛なら何となくわかるけど
あの頃の赤毛は
夜の世界にどんどんのめり込んでいく
彼のことが全く理解できなくて
追いかけようとしたけど
振り払われた

ゴメンねって
チコが嫌いになったわけじゃないけど
一緒にはいられないって

嫌いじゃないなら
なんで別れるのって

別れの日駅のロータリーで
嗚咽とともに漏らしたのは
言葉じゃなかった

その説明はちっとも理屈が通らなかったけど
彼の本当の気持ちだったんだろうなと
今なら思う
彼の左脳に夢中になって
最後は右脳に投げ出されて
ポツンと途方に暮れてた赤毛だったけど

今では理屈より
屁理屈が大好きで
こねくり回してるよ

なんだか最近妙に
赤毛にU2を教えてくれた大輔くんを思うのは
もうすぐ彼の誕生日だからかもしれない




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