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一皿の料理から始まる

コロナがいよいよ世界を覆い尽くした頃
近所にイタリアンのお店がオープンした
嵐の中の処女航海なんというタイミング

外観もこう言っては失礼なんだけど
大学の文化祭の模擬店みたいな手作り感満載で
なんとなくのイタリアンで入る小洒落気軽さもなく一見さんにはハードルが高い

ただ
何よりのアピールは
ランチのパスタが単品で750円
それにサラダが200円ドリンクが150円みたいな
まさに文化祭みたいな値段設定だった

ボンビー赤毛は迷わず誰もいない店内に入ると
ラグビー部みたいなガタイのいいお兄さんが
体に似合わぬ小さな声でイラッシャイマセと迎えてくれる

今日のパスタはなんですかと尋ねると
トマトソースのあのその
マリナーラみたいなパスタですと
みたいって何だよと思ったけど
トマトソースは大々好物だ
迷わずそれをくださいと頼む

店内はお兄さんがガンガンとトンカチで打ち付けた音が聞こえてきそうなくらいのDIYで
目立ったのは壁一面のイタリア地図
やや縮尺が思い出補正されて歪んでいるのも
多分お兄さんの手書きだろうと思われて
自分が訪れたことのある町の名前を探して
うっとり脳内ストリップする
いやトリッパそれじゃミラノ名物
いやトリップ笑

そうしているうちにパスタができた
真っ白いお皿に盛り付けられたパスタが美しい
そう美しい
そして触ったお皿がちゃんと温められている
細やかな心配り
まさか地元の模擬店で高級イタリアンみたいなシツラエでパスタを食べるとは
失礼だけど思ってなくて度肝を抜かれる

マリナーラみたいのとお兄さんが口籠ったのも宜なるかな
見たことないやつだった
フリカケみたいにパン粉をアンチョビで炒めたのがパラパラとかかっていて
それが海の香マリナーラみたいなもの
カプリチョーザにもポポラマーマにもサイゼリアにもないやつ笑
だから「みたいの」としか説明のしようがなかったんだと思う

お兄さんの記憶の中のパスタ

赤毛はイタリアは何度か旅しており
最後の晩餐はポモドーロかプッタネスカか迷って入るけどとにかくトマトソースのパスタと決めているくらいの筋金入りのパスタ好きで
小さい頃に住んでた街が何故かオハイソで
両親の商売のお客さんによくご馳走してもらったりで
貧乏人のクセに本物のうまいものを食べさせてもらったんだと思う
オサレカフェのパスタランチ1500円とは
一線を画すやつに出会ってしまったのだと
既に嗅覚と視覚でガツンと脳が判断した

黙って食し
お会計をと小さなカウンター越しの店長さんに声を掛ける
あの、久しぶりに心から美味しいと思うパスタを食べました
ベネチアで食べたポモドーロを思い出しました
イタリアの次に美味しいパスタだったと思います
ごちそうさまでした絶対また来ます
とバンドの出待ちをするファンみたいに
興奮して矢継ぎ早に話しかけると

あ、ありがとうございます
僕もイタリア大好きです
リストランテで働きながら旅してたんで
そう言ってもらって嬉しいです

ああそうでしたか
納得です
こんなところで食べられるような味じゃないです
イタリアで修行したんですね

ええイタリアで働いて
日本に帰ってきて西麻布のお店で働いてました
そんで独立してお店出して……
コロナです汗汗

タイミングは良くなかったですね
でも私また絶対来ますし
みんなにすげーイタリアンが出来たよってふれて回りますよ!

あざっす

帰宅して興奮して奇跡のような店が近所にできたイタリアの次にイタリアンがウマい店だと鼻息荒く話す
論より証拠と娘ら連れて後日行くと
長女が人生イチ美味しいカルボナーラを食べたと興奮して
胃袋掴まれちゃってアルバイト募集中の張り紙を見て賄いが食べたいという不純な動機でホールのバイトを始めた笑

その前の河合塾マナビスのチューターバイトは2ヶ月続かなかったから汗
どうかと思ったけど
賄い食べたさに
気の利かないシングルタスク過集中気味にも関わらず
オロオロとオーダーを取り食事を運び食べ終わった食器をヨタヨタと下げて
そんな姿をお客さんにも頑張ってねと温かく見守られているみたいで
週に一回だけどもう3年続いている

もうすぐアタシ誕生日だよ

そうだね、お店でお祝いしようか

うん、いいね

誕生日なんですって言っておく?

うーん店長この前当日に誕生日でお願いしますって言われて、ブチ切れてたよ当日言うなよ準備なんかできるわけねえって言いながらガトーショコラ焼いてたけど

うんああいうのってお店からのサービスなんだよね持ち出し無料でやるんでしょ

うんそうだと思うよ

それってさ図々しいよねよくよく考えると
祝えってタダでって

うーん
お店と個人的な繋がりが無い時はサービスって思ってたけどこうやって働いて店長がワンオペで仕込みから皿洗いまでやってるの見ちゃうとタダで頼めることなんかないよね

うんじゃあ
お金払うからケーキ焼いてもらう?

ううん
でもさ私達の胃袋で食事の後にガトーショコラ入る?もう料理でいっつも狸みたいな腹鼓で帰ってくるやん笑

うん黙っていよう
ただ誕生日の夜に食べに行こうよ

そだね笑

一皿の料理が人と人と出会わせて繋げて
そして行動を改めさせていく
いつか彼女がお店の壁面に絵を書いたらいいのになあと思っているのだけど
まだその時には至らないみたいだ

ボンジョルネ
良い一日をお過ごしください!

イタリアだからってカンツオーネを貼り付けた時代は終わった!
今はイタリアからロックだぜ
超カッコいいマネスキンを









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