勅使河原 山頭火「道具」(『蠱毒』収録)より冒頭部

「──利用者の名前は里田一美。二年前の八月に更新で認定を受けて要介護3。認知あり。今度の八月にまた更新の調査がある」

 ××市にあるマンションの一室。事務机が二つ並び、その上にはコンピュータやプリンタ、電話機などの事務用品、吸殻が山のように積まれた灰皿、そして日に焼けた青本や赤本が置かれている。男は鋭い目を一枚のコピー用紙に落としながら言った。疲労やストレスの痕が色濃く蓄積されたその顔は、五十代にも、六十代にも見えた。

「そう。じゃあ四宮のジイさんに話をつけといて。認定調査はそこでやる」

 男の話に答えたのは、しわがれた女性の声だった。顔に深く刻み込まれた皺が、その実際の年齢を読み取ることを難しくさせていた。

「了解です」

 男は机の上の電話機をむんずと掴むと、乱暴に番号を押していった。一度もつかえることなくボタンが押された様子から、女の言う“四宮のジイさん”が彼らにとっての得意先であることは容易に想像された。

 三コールの後、若い女性の声が返ってきた。

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