見出し画像

映画レビュー!

「ホモ・サピエンスの涙」(☆☆☆☆)
 いつも通りの、ワンカットを静態的なカメラワークで長回しで撮影し、文化人類学的ともいえる視点で「人間」を浮き彫りにさせて撮る技法が、人生の様々なニュアンスを切り取ることに成功をしている。

「ザ・バットマン」(☆☆☆)
 ノーラン監督三部作のあとで一体いかに「バットマン」を撮りえただろうか? 重厚な雰囲気によって格調は保てているものの、落ちは弱い。主演というよりも、ポール・ダノの怪演は必見である。

フィリップ・シーモア・ホフマン亡きあと、一番注目している俳優がポール・ダノなのです。もう彼が出てきた瞬間にきたあああっ、と、テンションが上がりまくりでした。すばらしいですよね、彼。

「ジョゼと虎と魚たち」(☆☆☆☆)
 絵としては無難で、平板であるが、デートムービー以上の見応えはたしかにある。図式的で大胆な構成はややあざといがアニメーションだからこそ活かせる技でもあり、同時にキャラクター一人一人が立っているため心理的な奥行きにも届いている繊細さがあるのだから、一概に批難するわけにもいかない。ヒロインが絵描きという設定も効果的だっただろう。

「マーティン・エデン」(☆☆)
 小説家の自伝的小説の映画として、作家性の強い、クセのある撮影や演出で挑んでいるのは面白いが、時間の省略が雑に過ぎて、ラストシーンに至るまでの後半以降が物語としての求心力を失っている。演出は相応におもしろくはあったのだが、映画としての基本ができていない。

「リズと青い鳥」(☆☆☆☆)
 アニメ映画として、かなり重要な作品なのではないか。ストーリーを作り出すのではなく、濃密に雰囲気を作り出すことに専念をしているため、結果として非常に実験的で野心的な作品となっている上、どこまで企図したものかは分からないが、女子校の空気を匂い立つように描きながら、同性愛を描くという危うげな質感が、視聴者のことを当惑させてやまない。

「ヴィオレット」(☆☆☆☆)
 マルタン・プロヴォ監督。ボーヴォワールの支援を受けて育ったバイセクシュアルの作家、という非常に興味深い題材を撮るセンス、そしてクセのある人物を扱いながら、それに位負けをしないというよりも、狂気をしっかりと描き出す才質を発揮しており、作品全体もしっとりと落ち着きをもっている。配役も見事、ヴィオレットはおぞましく、ボーヴォワールは凜然としていて格好いい。

「ミナリ」(☆☆☆☆)
 筋立て自体は非常にありきたりなのだが、A24のものらしい清新な演出、配役が魅力的な良作である。

「水を抱く女」(☆☆)
 明確な駄作。もとの題はウンディーヌだが、現代においてウンディーヌ神話を再現しようとする構想がまったくアクチュアルではなく、映画全体にある種の滑稽さを帯びさせているという謗りを免れえない。作品の完成度にも粗が目立ち、観れば観るほどになぜウンディーヌなのか、必然性がみえなくなる上、いっこうに幻想的にも甘美にもならない。

でも、こういう単館系のどうしようもない映画って、ひとりで映画館で観るとなんかとにかく一本観た、という心持ちになるのですよね。とくに最近それを強く感じる。映画なんてしょせん無駄なのだ、というのもあるし、映画なんて大半がゴミなのでありこれも来るべき観るべき映画にむけての助走のひとつなのだ、という健全な感覚をおぼえるから、というのもある。家で観るとけっこうな地獄だけれども。

「ハミングバード・プロジェクト」(☆☆☆)
 娯楽映画の作りをしている。序盤から軽快に物語が進んでゆき時間を感じずに楽しめるが、その分金融の問題について触れていないなど奥行きが足りていないこともあってか、決め手に欠く。役者陣が健闘していないわけではないのだが、配役も適確とはいい難い。

「カモン カモン」(☆☆☆☆)
 ホアキン、子役の演技ともに良く演出もA24の映画らしくエモーショナルであるが、脚本の整理が行き届いておらず最後まで冗長に感じさせる。九十分映画に削ってくれよ、というような。ともあれ相互理解の困難さをテーマとして、モノクロの撮影に必然性をしっかりと持たせており、「他者」をめぐるひとかたならない奥行きを捉えることに成功をしている。


この記事が参加している募集

週末プロジェクト

静かに本を読みたいとおもっており、家にネット環境はありません。が、このnoteについては今後も更新していく予定です。どうぞ宜しくお願いいたします。