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「美しい」の研究報告(9月)

見たり、触れたり、味わったり。日常の中で感じた「美しい」を掬い上げ、それについて研究した内容を綴る、日記に近い研究報告です。「美しい」ってなんだろう?そんな曖昧な感覚について深く考えてゆきます。


Time

9月の空に、秋を読む

朝の堤防

心身の健康のために、毎朝できるだけ堤防に行って歩いたり走ったりしている。

少し前まで朝6時でもジリジリと暑かったのに、9月に入り一気に秋の涼しさが漂うようになった朝の堤防。
人肌の穏やかな優しい風を心地よく感じながらも、夏の暑さとともに眩しい記憶たちが季節の影に姿を潜めてしまったようでなんだか切ない。
季節の境目に立つといつも、四季がある日本がいいなあと思う。たとえ一つ前の季節に悲しいことがあっても新しい季節が全て掻き消してくれるような、新たな季節の匂いが全てを肯定してくれるような、そんな気持ちになる。

柔らかなススキの匂い、たなびく秋風、広く高く澄んだ空。9月の空に秋を読んで、季節の境目の美しさに惚れた。




Taste

肩を並べて美味しい時間

美味しかったソーセージドッグ

帰り道に友人とふらり、原宿にある小さなワインバー「Bar werk」へ。
席数は10席程のこじんまりした空間。私達はカウンターに座って美味しいお酒とご飯をいただいた。
この時食べたソーセージドッグと赤ワインの味が忘れられない。パイ生地のバターの風味と、赤ワインのどっしりとした濃厚さが舌の上でとろりと絡まり合い、なんとも贅沢な味わいだった。

こんな小さなワインバーのカウンターで、友人と肩を並べて人生とか愛とか壮大な話をするのが私は大好きだ。

話は変わるが、以前原宿のGYREで開催していた「食植・住」展に行った時にて、日本の伝統的な家にある縁側は、村社会で起こる小さな問題を大きくなる前に解消する装置として機能していたということを知った。真正面に向き合い白黒つけるよりも、肩を並べて景色を眺めながらの方が言いづらいこともやんわり伝えられるから。まったく揉めてはないが、いつだって私は縁側に座るように肩を並べて話すのがすごく好きだなあと思う。たとえ親しい人との食事あっても、レストランではテーブル席よりカウンター席を選びたくなる。(もちろん相手のことを思って最終的にいつもテーブル席を選ぶのだが)

小さなワインバーで、カクテルが作られている様子を眺めながら、
美味しいお酒と美味しいご飯で店内の広さに見合わないくらいの壮大すぎる話を語る。そんな時間が美味しくて大好きだ

📍 Bar werk

https://www.instagram.com/bar_werk/




Place

ささやかな美しさに気付く空間

京都にある「冬夏 tearoom toka」へ行った。
とあるニュースレターでその存在を知ったのがきっかけでその場ですぐに予約した。
6席しかない小さな空間で、店内は必要最低限の光だけが灯されている。
窓の高さも低く、窓から見える景色は庭に植物の足元だけ。
携帯のシャッターも切れない代わりに、とても静かで器に注がれる日本茶の音が店内に響き渡る。
最初、その空間に入った時「何もない」静かな空間にずっとソワソワしてしまっていたが次第に、目の前に広がる空間の豊かさに魅了された。
一つ一つ丁寧に淹れられる様子、うっとり見惚れてしまう佇まいの茶器、上品に香る日本茶の香り。
もしこれらが騒がしく明るい空間に存在していたら、きっと私はこの空間の美しさに気付くことはできないだろう。

情報やデジタルなツールで溢れているのが当たり前な世の中。そんな世界から隔絶された空間に1時間放り込まれるとこんなにも目の前の小さな美しさに気付くことができるのか。ささやかな美しさに気付けない日常はなんと貧しいことか。たった1時間なのに、人生観がゆらりと揺さぶられたようなそんな感覚に陥った美しい空間だった。

📍 冬夏 tearoom toka




Book

痛くも爽やかな風を感じた本

いくつもの週末」を読んだ。著者の江國香織とパートナーとの週末の様子が描かれた一冊、その日常をなんともリアルでダーク。描かれている日常はささやかで愛しいのに、男と女のリアリズム、ふうふとしての関係、それに対する率直な想いが痛くも共感することばかりで、ちょっぴり目を背けなくなるような。

ふうふとか恋人とかの関係って難しい。昔から家族の在り方について考えていた私は「家族の形は家族の数だけあるんだから、何が正しいなんてない」って半ば妥協して割り切っていたのに、何故だろう、ふうふとか恋人とかの関係ってそうも簡単に割り切れなくて。近いんだからわかってよ、とか。近いのに分かり合えないことへの絶望とか。いろいろを感じるわけで、そんないろいろで絶望してもそれでもやっぱり隣でいたいと思うのがふうふとか恋人だったりするのかな、とそんなことを考え静かに納得した。痛くも爽やかな風が心を横切るそんな一冊でした。

📍 いつくもの週末




Other

インテリア化したバケットリスト

「なんとなくやる気がでない」そう感じながらここ数ヶ月過ごしていた。なんでだろう?と振り返ると原因はインテリア化したバケットリストにあったように思う。私は昔から「死ぬまでにやりたいこと」をリストアップするのが大好きだ。書き連ねて叶っている状態を思い浮かべてわくわくして、一つ一つ達成してリストを消していくのがなんとも大好きだった。大小関わらず夢を叶えていくプロセスが快感だった。だけど、最近バケットリストに書く夢がどれも「叶いっこない」と思えてしまっている。それもそのはずで、どれも自分のためじゃなくて、他人のために美化された夢で、「こんなふうに思われたい」と他人の目が入った夢を書き連ねてしまっているように思う。そんなこんなで消されもせず、ただ綺麗に陳列したインテリアのようになった今のバケットリスト。なんとも寂しいバケットリストに反省しまっさらな状態から書き直そうと決意した、9月であった。



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