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「美しい」の研究報告(3月)

見たり、触れたり、味わったり。日常の中で感じた「美しい」を掬い上げ、それについて研究した内容を綴る、日記に近い研究報告です。「美しい」ってなんだろう?そんな曖昧な感覚について深く考えてゆきます。



Taste

愛が美味しいを生み出す

雨の日が続いた3月のある週末、生まれて初めて山梨県を訪れた。甲州の方へ車を走らせ辿り着いたのは山梨県・塩山にあるワイナリー「98wines」。雲一つない空の下、春の風を感じながらいただいた、甲州ワインとゴルゴンゾーラチーズケーキの味が忘れられない。芳醇なワインと甘じょっぱいチーズとのマリアージュ、なんと美味しいものか。静かで開けた丘の上にあるこの場所は、元々は公民館だったそうだ。老若男女問わず多くの人が集っていた場所を改装し、現在は新たな集いの場として人々に愛されている。「ワインのぶどうも、内装や建築も、ここにある植物も、全て山梨でできたもの。この地で全てを完成させたい。」オーナーさんが発するその言葉にその土地、その場所、そこにいる人への愛情が滲み出ていて、こちらの心がぽっと満たされた。素敵な場所には素敵な人がいて、そんな人が素敵な味と時間を作り出している。これが美しい味の方程式なのかもしれない。

📍 98wines




Time

心がひらく、穏やかな

先日、山梨県・山中湖の「SANU 2nd Home」に初めて宿泊した。SANUは会員制のセカンドホームサービスで、会員であれば様々なSANUの拠点に宿泊することができる。

近くのスーパーで沢山の食材と、ワインショップで美味しいワインを2本調達して、夕食を作りながら飲んで、食べて、作って、飲んでを繰り返し…じゅうぶんにキッチンドランカーを楽しんだら、ベッドでごろんとする。

気が付けば都会にいる時と変わらない過ごし方をしていたはずなのに、どこか特別で忘れられない時間を過ごせたのは自然を限りなく近くに感じていたからだろう。国産の木材の香りがほんのりと漂う広々とした空間、窓から覗く美しい木々。都会の喧騒から離れて、自然の近くにぽんと身を置くだけでこんなにも心の穏やかさが違うものか。私はこのように心が安らぎリラックスしている状態を「心がひらけている」と言うときがある。いつも通りの暮らしでも、心がひらいていたら目の前の些細な出来事も有り難く掬い上げることができるし、美しいものも真っ直ぐに受け取ることができる。美しい時間というのは作り込まれたものじゃなくて、心がひらく穏やかな環境が美しい時間を生み出しているんじゃないだろうか。忙しない日々の暮らしの隙間の小さな輝きのような優しい時間、こんな時間を意識して過ごしていきたい。

📍SANU 2nd Home




Product

有識織物の巾着バッグ

ホテル・カンラ京都で開催されていた工芸品の展示販売会「DIALOGUE」へ行った。友人が出展していることがきっかけで初めて訪れたのだが、作り手の技術とこだわりが詰め込まれた作品の数々に心を打たれた。その中で「平七」という有識小物のブランドの巾着バッグに惹かれ、思わず購入。有識織物とは、平安時代に十二単などにも使われていた最高級織物で、刺繍ではなく織によって文様を表しているのが特徴。「電球等がなかった時代、ほのかな蝋の光の中でも文様が綺麗に見えるようにと丁寧に織を重ねて作られたんですよ。」というスタッフの方の一声に心掴まれた。

使いやすく丈夫で分かりやすいものが好まれる現代のファッションアイテムとは真逆の、繊細で壊れやすく分かりにくい有識織物の巾着バッグが私にはとても魅力的に見えた。最近、長く丁寧に愛せるものしか持ちたくないとより強く思うようになった。(もちろん日用品としてガシガシ使いたいものもあるけれど)大量生産大量消費が当たり前の今に比べると昔のほうが目の前の物をより大切に扱っていたように勝手に想像する。このバッグを身に付けることで、扱いも仕草もより丁寧な人で在りたいなとそんな願掛けの想いも込めて。




Book

つたなさの方へ

間違いたくない、失敗してはならない、という強迫は、しばしば間違いや失敗の傷をいっそう大きく深くしてしまう。だとすれば、自分の信念についてもまた、適度にぐらぐらと動揺し、頻繁に、しかしなるべく優雅に転倒するわざを磨いておいた方がいいような気がするのだが。

つたなさの方へ|那須耕介

歳を重ねるごとに、どうして失敗に怯えることばかり上手になるのだろうか。失敗を恐れ、挑戦を拒む大人にはなりたくないと、友人に必死に語っていた大学時代を思い出す。そんな「なりたくない大人」にふとした瞬間になっている自分に嫌気がさす。大人になるということは、失敗をしないようになるのではなく、こけるのが上手になるということなんじゃないだろうか。那須耕介さんの真っ直ぐで凛とした文章が、ゆらゆらと揺れる私の心に優しく響いた、3月。

📍つたなさの方へ(那須耕介)




Other

桜の絨毯

今年はお花の足が早いなあと思っていたのに、桜は開花予想よりも大幅に遅れて咲いた。まるで周囲の様子を伺いながら控えめに徐々に咲く桜たち。そんな桜は、4月初週でやっと満開になって1週間も経たないうちにキラキラと地面に散っていく。でもそんな散りゆく桜も美しいよりいっそう思うようになったのは、「chaoscosmos vol.2」で展示されていた高木由利子さんの写真と出会ったからだろう。桜の花びらが地面や川に広がる様子を宇宙に見立てて撮影された写真の数々。終わりを連想する桜の花びらも高木さんのフィルターを通すと宇宙の始まりのように見える。世界の見方を変えてくれる何かを生み出す人は本当にすごい。写真でも文章でも、どんな手段を使ってでもいいから見方を変える何かを私も生み出してみたいなとぼんやり思った。ここ数日の雨と強風で、また桜の絨毯が広がるだろう。


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