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「美しい」の研究報告(5月)

見たり、触れたり、味わったり。日常の中で感じた「美しい」を掬い上げ、それについて研究した内容を綴る、日記に近い研究報告です。「美しい」ってなんだろう?そんな曖昧な感覚について深く考えてゆきます。

Taste

ゆっくり味わい、溶けていく

お天気がナナメな5月のある日。滋賀県高島市にある古民家カフェ「スズノイエ」に行ってきた。

大阪から滋賀に移住したご夫婦で営まれていて、田園風景の中にぽつんと佇む可愛らしいお店。扉を開けるとすぐ右手には洋菓子が並ぶショーケース。キラキラきらめく美しいケーキたちが眩しい。靴を脱いで店内に上がると、木の床のぬくもりがじんわりと足を伝っていく。お手洗いを「厠」と表記しているのも愛おしかった。

店内は程よい感覚で席が配置されてて、窓の外には田園風景が広がる。まさに、田んぼビュー。その景色が、映画のワンシーンを切り取ったようだったドラマチック。世間から切り離されたようにゆっくりと時間が流れていた。

私達はスパイスカレーとコーヒーを注文した。お肉と野菜がごろごろ入ったスパイスカレー。猫舌な私は、アツアツのカレーをどきどきしながら眺め、その後ゆっくりと味わう。うん、美味しい。

ゆったりとした時間が流れる店内では、食べ物がいつも以上にゆっくりと消化されていくように感じる。食材の味、スパイスの風味。いつもより大事に味わい、お腹の中にじんわり溶けてゆくのを感じる。一口食べるだけで沢山のものを得ているような感覚。ふう、満腹だ。

味を、時を、会話を楽しみ、気が付けば3時間そこに滞在していた。それでも「ゆっくり過ごしてくれるのが嬉しい」と微笑むご夫婦がたまらなく素敵で、今でもお二人の笑顔が忘れられない。少し遠くてもまた訪れたい、また味わいたい。そう思わせてくれる美しい味。


☑スズノイエ(滋賀県高島市)





Place

帰り道まで豊かにさせる場所

毎年の初夏の楽しみ、KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)へ行ってきた。
KYOTOGRAPHIEは京都を舞台に開催される、日本でも数少ない国際的な写真祭。日本および海外のアーティストによる貴重な写真コレクションを、京都の歴史的建造物や近現代建造物の空間に展開する。今年は「BORDER(境界線)」をテーマに京都の全14箇所で作品が展開された。

この日、雨だったこともあり、場所を絞って回遊。特に印象的だったのは二条城 二の丸御殿 台所・御清所で開催されていた高木由利子氏による「PARALLEL WORLD Presented by DIOR」だった。

実はKYOTOGRAPHIEに訪れる前、東京都現代美術館で開催のChristian Dior展にて高木由利子氏の作品と出会い、その伸びやかで力強い作品に心底感動したのだった。再び彼女の作品を京都で観れることを知り、閉館間際に急いで向かったこの展示が本当に良かった。

国宝建造物に負けないくらいのダイナミックでしなやかな作品たち。印画紙、和紙や漆喰など異なる素材に作品が映し出されており、二条城の厳かで日本的な内装とうまく溶け合っていた。今回の展示が民族衣装を着た人々と現代ファッションを着た人々の写真をパラレルに展示していることもあり、写真を通して語られるストーリーがその空間にさらに奥行きをもたらしていた。さらに、この作品を一人の女性が創っているのだと思うと、それもまた刺激的だった。美しい人が創る作品は美しく、その作品がある空間は美しい空気を漂わせ、観る人の心に花を咲かせる。もの作りというのは、人々の心を救うための種まきのように思える。

美しい空間をあとにして、余韻に浸りながら京都の町を歩く。歩く先に見える景色は、展示を見る前よりも華やかに映る。美しい空間は、空間を出たあとの道のりも華やかにさせる。そう感じた場所であった。


☑ KYOTOGRAPHIE 2023

☑ Christian Dior展

☑高木由利子




Time

我夢者羅だった自分との再開

5月、4年ぶりにクラシックバレエのレッスンへ行った。

私は3歳からクラシックバレエを習い始め、中学高校の青春時代はバレエ一筋だった。みんなが知っている遊びにも恋愛にも全く興味を示さず、毎日バレエのことだけを考えて生きていたと思う。毎日学校と家とバレエスクールの往復で、気が付けば週5日×6時間、我夢者羅にレッスンや自主練習を続けていた。こんな生活だったからクラスメイトとの話題にはちっともついていけず、友達もほとんどいなかった。けどバレエは上達していった。全国コンクールに出たり、バレエ留学をしたりしても、憧れのプロと共演したり。それでも当時は「バレエが好き」とは正直思えなかった。「何でバレエを続けているの?」と聞かれても「上手くなるため」としか答えられなくて、成長意欲だけが私を踊らせていた。さらには、当時バレエしかない人生だったからバレエを辞めると自分から何もなくなることが怖くて仕方なかったと思う。そんな私も、病気、進学、就職等を経験し徐々にバレエから離れることになった。日常からバレエがなくなるなんて考えられないと思いながらも、踊らないことが日常になっていくことをいつの間にか受け入れる。それでも心の何処かでは再び踊りたいとひそかに願っていたと思う。

踊らないまま4年が経った。再び踊りたい気持ちと、(自分にとって大切なものだからこそ)4年間で劣りきった自分と対峙することへの恐怖で揺れながら、意を決してレッスンに行くことを決めたのがこの5月。震えながらもスタジオに踏み入れ、久しぶりに受けた1時間半のバレエレッスン。とっても幸せだった。音楽を感じ、踊ることがこんなに幸せなことだったのかと感じ、「私はバレエが好きだったんだ」と時を経てやっと感じられた瞬間だった。もちろん、昔に比べると変なところに肉がついてたり、思うように身体が使えなかったり、パ(ステップなど振り付け)が覚えられなかったり。もどかしい気持ちはあったけれどもそんなのどうでもいいくらい踊れることが幸せだった。

思い返せば、社会人になってから仕事に使えること役に立つことばかりに時間とお金を投資し、仕事と関係のない趣味は無駄なものと判断して、それに費やすことにかなり億劫になっていたと思う。なんなら罪悪感を感じていた。(青春時代当たり前のように時間をかけていたことなのに…)

しかし、一見無駄に思えることほど人生を豊かにしてくれる。幼少期、親に止められても没頭していたこと。青春時代に全てを捧げ努力したこと。昔からずっと気にかけてしまうこと。それらが豊かさをもたらすヒントであり、私にとってそれら全てが「バレエ」に詰め込まれていた、とやっと気付けたのであった。そんな大切なものに再び触れたことで、ずっと心の中にあった引っかかりが取れてすっきりした気持ちになった。

日々を豊かにするための答えは、昔の自分が教えてくれるのではないか。人生に行き詰まっているときこそ、幼少期の自分を思い出し無邪気に無駄に没頭するをしていきたい。

自分にとっての豊かさに気付けた、そんな美しい1時間半である。
(また、自由に踊れるようにレッスン頑張るぞ〜)




Book

大切だからこそ

印象的なページ

GWの自分への課題図書として「デュアルキャリア・カップル」を読んだ。それぞれ自立したキャリアを持つカップルが、お互いの人生を大事にしながら人生の3つの転換期を乗り越えるためのTIPSが散りばめられた本。今まで「モテテクニック」「恋愛術」のような小手先のテクニックを記したハウツー本や記事は沢山目にしてきたが、本質的かつ長期的に良いパートナーシップを築くための方法を説いた本にはなかなか出会えなかったので、興味深く読んだ。が、本当に良かった。読んだ後、パートナーと沢山対話したくなった。大切な恋人や家族とのリレーションシップはとても大事なはずなのに、大切だからこそ向き合うのに勇気がいる、怖かったりする。そんなときこそ、この本のようにお互いにとっての共通言語になるようなものがあると、対話のきっかけにもなり、とても良いなと思った。この世の全てのカップルに読んで欲しい本。これから大事に読み返していきたい。


☑ デュアルキャリア・カップル




Other

ささやかで特別な日

先日、パートナーのお誕生日お祝いをした。

(私事だが…)人生で初めて、恋人の誕生日を初めて祝う記念すべき日でもあった。パートナーとは8ヶ月程の付き合い。(前述の通り)今まで恋愛にまったく興味がなく「好きとか恋愛感情ってなんなん?そんなにいいのもの?」と思うくらい恋愛よりも仕事や趣味が第一優先の人生を生きてきた。まともに人と付き合った経験もない。恋愛は人を弱くさせるものだと勝手に思い込んでもいた。「恋人欲しい?」と聞かれてYESと答えつつ、自分に恋愛ができるわけないとずっと思っていたし、必要ないと思ってた。そんな人生だったからこそ、彼との出会いはとても不思議なもので。出会ってから、自分の恋愛への歪んだ認知を大きく変えてくれた。人に愛情を注ぐことってこんなに素晴らしいものなんだ、パートナーの存在は自分を強くしてくれるんだ、と気付けたことはわたしにとってこの数ヶ月での大きな成長。おめでとうと、いつもありがとうの気持ちでお祝い。ささやかだけど、私にとっても特別な日でした。(お祝いの仕方も分からなくて数ヶ月前から相当ググっていたのは内緒…)



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