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旅先で出会った神様

一人旅の魅力

私は気ままな一人旅が好きです。
もちろん家族や友達との旅行もいいけど、本来の自分を取り戻す感覚や開放感を楽しめるのは一人旅の醍醐味だと思っています。

そして一人旅は何といっても面白い出会いが多い! 孤独や心細さを感じる暇などありません。今回は私にとって最も印象深かった出会いについて書きたいと思います。


初めてのアイルランド

20年前の11月上旬、私の乗った飛行機がアイルランドの首都ダブリンに着いたのは午後7時半頃でした。
予定では午後4時頃に到着するはずだったのに、エンジンか何かのトラブルで3時間以上も遅れてしまったのです。

限られた日数で、できるだけ観光したかったので、当初の計画では初日に西側のダブリンから東側のゴールウェイに移動するつもりでした。でも今から移動すれば到着するのは夜中になってしまいます。仕方ないので、とりあえず中間地点にあるアスローンに行くことにしました。

初めての白夜

アスローンに着いたのは午後8時半頃。観光案内所は、とっくに閉まっている時間です。
どれだけ暗いんだろう……と恐る恐るバスを降りてみると、その明るさにビックリ。日本なら秋の午後4時ぐらいでしょうか。まだ浅い夕焼けの中、緑の多い街並みで人々が散歩を楽しんでいるという、のどかな風景が広がっていました。

十分に下調べもしていなかったので知らなかったのですが、この時期、アイルランドは白夜で10時ぐらいまで明るいのだそうです。無計画な私にとっては、とてもラッキーなことでした。

ジョアンさんとの出会い

ホッとした私は、とりあえず泊まる所を探そうと思い、小犬の散歩をしていた上品な70~80代ぐらいのご婦人に「ホテルがあるのは、どの辺でしょうか?」と尋ねました。すると、婦人はニッコリと微笑んで、帰り道だから案内すると言ってくれたのです。

いい人に出会えてよかった。
この辺は初めてかと聞かれたので、アイルランドは初めてで、数時間前に着いたばかりだということ、アスローンの風景がきれいで感動したこと、外が明るくて驚いたことなどを伝えました。

ジョアンという名のその女性はニコニコと聞いてくれていましたが、急に思いついたように「よかったら、うちに泊まれば?」と言ってくれたのです。
予想もしなかった展開に一瞬ポカン。
えっ、初対面なのに? 見知らぬ外国人を家に入れて大丈夫?と逆に心配になりました。

「いいんですか……?」と遠慮がちに聞く私に、ジョアンさんは満面の笑みを浮かべ「一生に一度は、こんなことがあってもいいでしょ?」と返してくれました。
ああ、なんて素敵な考え方! この一言に気持ちが軽くなり、喜んでご厚意に甘えることにしたのです。

楽しかったひと時

ジョアンさんのお宅は古い石造りの家で、写真や小物がセンス良く並べられている居心地のいい空間でした。

ホットチョコレートを飲みながら、ジョアンさんも自分の話をしてくれました。以前はお土産物屋さんで働いていて、観光客と話す機会が多かったこと。だから海外から来た人から知らない土地や文化について聞くのが大好きだということ。

これはジョアンさんが好奇心旺盛な人だったからでしょうか。
初対面とは思えないほど会話が盛り上がり、気づいたら午前1時近く。
文化も世代も違うのに、こんなにも打ち解けて話せるものなのだろうかと感動しました。

私の他愛のない話にも、まるで少女のように瞳をキラキラと輝かせながらウンウンと聴いてくれるのが嬉しくて、この時間がずっと続けばいいなと思ったほどです。


そして次の旅へ

翌朝、お礼を言って別れの挨拶をしました。ほんの数時間だけ一緒にいただけなのに、すごく寂しく感じたのを覚えています。
リュウマチで歩くのも大変なのに、家の中をあちこち移動しながら私のベッドや朝食まで用意してくれたジョアンさん。

私はというと軽装で来てしまったので、「良ければ使ってください」と申し訳ない気持ちで湿布とカイロを渡しただけ。それだけは苦い思い出です。一人旅といえど、日本からのお土産を持参すればよかったと後悔しきり。

ジョアンさんは別れ際に温かい手で私の顔を包み、「神様が守ってくれますように」と言って送り出してくれました。あの優しい笑顔と柔らかい声は今でも映画のワンシーンのように、ありありと浮かんできます。

ありがとうジョアン・オブライエンさん。こんなことを言ったら信心深いあなたは不謹慎だと思うだろうけど、私にとってはあなたこそ神でした。その後、あちこちを回ったけど、ずっとあなたの温かさに守られているような気がして心強かったんですよ。

出会いと旅

ジョアンさんとの出会いがきっかけで、より出会いを大切にするようになりました。今度は自分が誰かの役に立てないかな? 面白い話を共有できないかなと考えています。
この旅でハプニングを楽しみ、直感に従うのもいいことだと気づきました。飛行機が遅れなければ、そして気まぐれでアスローンに行こうと思わなければ、ジョアンさんとは出会えなかったのですから。 


今、再び旅に出たいなと考えています。
さあ、今度はどんな出会いがあるだろう? どんな面白い体験が待っているのでしょうか? 
わくわくしますね。

#わたしの旅行記

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