【要約】ロザリンド・クラウス「グリッド」『アヴァンギャルドのオリジナリティ』(1978)

(1)要約

本稿は、近代芸術作品における「グリッド」表現を考察している。この考察では、グリッドが近代以前に作品の表彰として現れなかった近代特有の表現であることを明らかにしている。

まず、クラウスはグリッド表現には、「近代(モダニティ)を宣言する方法」として二種類の要素ー空間的なものと、時間的なものがあると主張する。
空間的な要素
空間的な要素において、グリッドは芸術領域における自律性を示す。それらは、幾何学化といった秩序化によって平面上に純粋な秩序だった関係を作りだす。それは、自然固有の秩序ではない反自然であり、反模倣的であり、反現実的な構造を持つ。さらにいえば、自己目的的であるといえるだろう。
時間的な要素
時間的な要素においては、グリッドは近代(モダニティ)の標章(エンブレム)であるという。なぜなら、グリッドは20世紀以前に表現として立ち現れていないからである。美術史においては、グリッドの派生を図るならばそれは見えないかたちで15〜16世紀に活用された透視画法として現れていると指摘する。しかしながらそれらは、写像を作り出す方法であり、表現として立ち現れていない。
また、19世紀には生理学的工学としてスーラやシニャックが視覚の基礎構造の標章としてグリッドを取り扱ったとして考えることができると考察している。しかし、それらは表現として活用されてはいない。

また、グリッド表現には視覚的に、遠心的な要素と求心的な要素がある。
遠心的な要素として例えば、モンドリアンのキャンバスにおけるグリッドは、常にグリッドが断片的に映し出され無限に広がるようなイメージを受け取る。
求心的要素とはその内部に視点がいくことである。これにはフレームの中にフレームがあるような、キャンバスにおける窓の中身を覗かせるような絵画に代表される。このような表現は19世紀における窓を用いた絵画を原点として発展している。

クラウスは、上記のように、グリッドにおける表現の空間性、時間制の要素や、視覚的な遠心的、求心的な要素など、相反する要素を同時に内包するという複雑な構造を指摘する。また、グリッド表現には科学(唯物論的)や精神(神話的)な要素を同時に内包している抑圧的、かつ分裂症的な病因論的な表現として立ち現れていると考察する。
様々な表現の要素を集約するような表現として現れたグリッドは、歴史的観点から発展的であると考えることはできるが、作品の性質としては反発展的、反歴史的、反物語(叙述)的な表現として立ち現れている。

(2)学術的意義

ロザリンド・クラウスは、モダニズム芸術の特徴を「グリッド」に見出す。他にも、ロダン彫刻の複製性を批判した「反復性」や「オリジナリティ」もモダニティの神話構造として明らかにしている。特に反復性についていえば、グリッドとの関係性は濃密である。
彼女の「グリッド」理論に基づいて考察すれば、グリーンバーグのいう純粋性、自律性に基づいたモダニズム絵画、フォーマリズム、そしてその動向から生み出されたミニマリズムは、反発展的、反歴史的、反物語的であることから、表現としてある種の行き詰まった状況を生み出すということが、理解できる。


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