5.私に告げられた病名

「彼氏から連絡来なくてうつ病になりそう」

未読スルー多発中の彼氏持ちの友達は、口癖のようにうつ病という言葉を使っていた。学生時代だけでなく、社会人になってからも恋バナだけは欠かすことなく話していた気がする。未読スルーするような彼氏を好きになってしまう友達のことを不憫に思うことはなく、むしろ恋を一生懸命に頑張る彼女を私は誇らしく思うほどだった。物であれ人であれ、好きになる気持ちは人をハッピーにさせるし、嫌なことがあっても乗り越えることができる原動力になってくれる。恋バナは唯一無二の楽しみだったの。私にとっての原動力は友達との恋バナだったのかもしれない。いつからか、その原動力は思い出すこともできなくなるくらい小さなものになってしまった。それでも、友達と話している瞬間の私はきっとハッピーという言葉のまま時間を過ごしていたと思う。

「どのくらい寝ていませんか」

「何か最近変わったことはありましたか」

「死にたいと思うことはありますか」

「うつ病かもしれませんね」

「うつ病に近い状態だと思います」

強制入院の指示が出たメンタルクリニックを受診する前、父と一緒に3つの病院で診察を受けた。3つの病院に行ったことは覚えているが、先生の顔や何を話したかはほとんど覚えていない。なんとなく聞かれたことを上記に書いてみた。精神科を受診するの初めてだったし、私の受け答えで自分の状態を先生に正確に伝えることができたかはわからない。薬を処方してもらった記憶はあるが、飲んだ記憶は全くない。今思えば少しでも薬を飲んでいれば強制入院しなくても済んだのかもしれないが、結局飲まなかった現実が強制入院という結果なのだろう。

「今でも死にたいですか?」

「死にたいです」

この質問はいきなりされたわけではない。数々の質問と簡単なテストを受け、最終判断としてこの質問をされたので、私は今の気持ちを答えたのだ。今その時のことを思い出してみても、その当時の私の答えに間違いはなかったと思う。だって、私は、どうしようもなく死にたかったのだから。誰に何を言われようと決意が変わらないくらい、自分の人生を終わらせたかったのだから。

「あなたはうつ病です」

強制入院した先生の顔は今でもはっきりと覚えている。そして、これから先の人生、先生の顔を忘れることはないだろう。私の状態がうつ病だと診断された。「はい」という返事をしたが、その時の私はあまり理解をしていなかったと思う。なんとなくの精神で診断内容を聞いていたと思う。でも、なんとなくの認識の中でも、うつ病と診断されたのだから、薬を飲んだり治療的なものが始まるんだろうなと思っていた。


ただ私は、自分がうつ病だとは、どうしても思えなかった。


次のお話は、【6.私は認めない】です。ここまで読んでいただきありがとうございます。


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