節分に 鬼、ぼやく
マガジン #息抜きのショート・ショート
「♪鬼さんこちら、手の鳴るほうへ」って、昔はさ、小さい子に親がよく歌って聞かせてたんだよね。
よちよち歩きを始めたかわいいかわいい子供の前で手をパチパチと叩きながら歌うんだよ。
そしたら小さい子はよく笑ってさ、喜んで手の鳴るほうへ歩いてくるのよ。マジでかぁわいいんだよこれがぁ。
なのになんで、節分になったら、いきなり豆投げつけられなきゃならんのさ。
鬼はな、鬼はなあ。
図体はでかいし力も強いから、やるときゃやれるよ。
決闘を申し込まれれば勝ったりしちゃうよ。
命がかかってれば、そりゃ鬼のルールで戦うわ。手足引きちぎったり頭喰ったりするわな。それが生き物の世界だろ?
なのにどうして、人間が勝つと汚い手を使っていてもヒーローになれて、鬼が勝つと悲劇になるの?
源頼光とかひどかったぜ?
あの手この手で鬼を信用させてさ、それってウソつきまくったって事じゃん?詐欺だよな?なのに「鬼を成敗した」って今でも伝説になっててさ、御神楽なんかでは主役よ主役。この扱いの違い!差別じゃんね?
そりゃ悪いことした鬼もいるさ。
そいつは叩っ斬られてもしょうがないよな。そりゃ分かってるよ。
でも、鬼が全部悪いヤツなわけじゃないからね。
じゃなきゃ、「鬼さんこちら」なんて言わないっしょ?だしょ?
俺はねえ、だから普段はこうやって人の家の中に見えない姿でいさせてもらってるけど、たまには家事のお手伝いなんかもしてるわけよ。
雨の日で乾かない洗濯物が早く乾くようにフーフーしたりさあ、ママパパが忙しい時に赤ちゃんが泣き出さないように、変顔してあやしたりさあ。
だからもうちょっと、節分ってやつも見直して欲しいんだよね。
なんかここんとこ、キメツとかいうののせいで、それまで豆まくだけだった子供たちが刀まで持つようになっちゃったんだから、たまらねーよ全く。
イテ!イテテ!
おい、今日は2月2日だろ、なんでいきなり豆ぶつけてきてんだよテメ。
え?今年の節分は2月2日?聞いてないよ!
知らねーよ、節分は明日だと思ってたから燗つけちまったじゃねえかよ。明日ぶつけられる豆の数減らそうと思って、今食べ始めたところなのに。炒り豆にすると大豆ってなんでこんなにウマい酒のアテに……イテテテテ。
待て、待てって、酒がこぼれる……あぁあもったいない。
わかった、わかったよ。一度出てくよ。
そんで、今年は2月3日に帰ってくりゃいいんだな?
めんどくせーなちきしょう。
坊や、また明日な。
明日の朝になったら、また「鬼さんこちら」しようぜ。な。
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