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BoothでTRPGシナリオを売る時に気をつけたい法律 <第1回> 特定商取引法編

このnoteは筆者朱石がBoothのショップを運営するにあたり、個人的に法律を調べ学んだことに基づいて記したものです。
法律についての正しい知識を保証するものではありません。法についての見解は専門家の指示を仰いでください。
また、このnoteは2024/1/5現在に書かれたものであり、法改正などで内容に変化が生じる可能性がございます。

前段・法律にはどの程度対応したら良いのか

前回記事では、「Boothでは法対応する必要がある!」といった内容を記しました。
しかし、「みんな法律対応なんてやってないから、大丈夫じゃない?」と思う方も多いと思います。

実際のところ、個人間売買において、公的機関から法律に基づいた介入が行われることは少ないように思われます。
というのも、個人間の小規模取引はネットオークションやフリーマーケットサイトなど枚挙に暇がなく、数が多すぎて公的機関では対応しきれない実情があります。

それに加えて、友人同士の軽い物品交換レベルの取引まで強く取り締まってしまうと、民間への圧力が高まりすぎてしまうため、よほど規模が大きいか悪質でない限りは、見て見ぬふりをされることが多いように思われます。

が、民事は別です。

法律で取り締まられにくいのは、あくまで警察や役所から個人に対してだけ。しかもグレーどころか「本当は黒なんだけど、まあ個人だしね」で見逃されているだけです。
しかしそういったゆるい運用をされている商取引において「個人間でトラブルが発生した場合」、当然法律を破っていたほうが不利になります

トラブルが発生した時に身を守るためにも、消費者、ショップオーナーいずれも知識を得ておくに越したことはないでしょう。

Boothショップを作る時に最初に触れる法 ~ 特定商取引法


ということで、早速Boothショップを運営する際、どういった法律に気をつければいいか、私の調べた範囲でのノウハウを記していこうと思います。

最初に記しましたが、私もあくまで素人です!必要な対応が抜けている可能性も十分ありますので、より詳しく法律について知りたい方は調べたり、法律の専門家に相談しましょう。

最初に注意すべきは、著作権!……ではありません。
Boothのショップを作成した瞬間、既に対応を始めたことにされている法律があります。

それが今回解説する特定商取引法、通称特商法です。

■Boothの利用規約曰く、汝は事業者である


内容の説明の前に、まずBoothのショップ管理ページから「ショップ情報編集」を見てみましょう。
特定商取引法に基づく表記」という項目があると思います。

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit  より引用 (2024/1/5現在)

なになに、「販売事業者に該当する方は、販売者情報の表記をお願いいたします」…?
うん、私販売事業者じゃないから関係ないね!事業なんてやってないし個人だもん!

と思ったそこの方。
前回のnoteで、Boothには利用規約にこのような趣旨の内容が含まれていることを確認しました。

Boothのショップオーナー、事業者扱いです。

https://note.com/akasi_naru/n/n811920ded195


ユーザーがどう思っていようと、Boothはショップオーナーのことを全員事業者だと思っています。
法的な実態?個人売買?そんなの関係ない、Booth上じゃ全員ショップオーナーは事業者だ。

ということで、Boothさんは親切にも"事業者"のためにデフォルトでテンプレートを用意してくれました。

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit  より引用 (2024/1/5現在)


こちらの勝手に入力されていた良くわからない表記、特に触らず放っておいたら…


ん?自分のBoothショップに表示されてる「これ」って何だろう?

朱石アナログ屋 Booth支部 【素材/無料有】TRPG向けAPNG素材vol.3「戦闘開始2!」  https://akasitrpg.booth.pm/items/5341320  販売ページより引用 (2024/1/5現在)



あれ、ちょっと待って……

朱石アナログ屋 特定商取引法に基づく表記 https://akasitrpg.booth.pm/terms  より引用
※解説のため一部デフォルト表示に修正 (2024/1/5現在)


勝手に自分のBooth名が「事業者」扱いで表示されてる……?!
しかも、返品や連絡先の開示についても勝手に決められてる…!??

……というわけで、Boothではショップを始めた瞬間、問答無用で事業者扱いされます。この表示をOFFにする方法もありません。
だって事業者にとって「特定商取引法に基づく表記」は義務だからね!

そんな状態からのスタートなので、Boothのショップオーナーになるからには、まず「特定商取引法」から理解したほうが良さそうです。

■特定商取引法とは

では、特定商取引法とはどんな法律なのでしょうか?
こういう時に確実なのは公的機関が運営してるWebサイトを見ることです。
ということで消費者庁が、こんなサイトを作ってくれています。

特定商取引法ガイド
https://www.no-trouble.caa.go.jp/

特商法についての大体のことはここに書いてあります。執行状況なども検索できるようですね。
逆に言えば、消費者庁から注意を受けるほど悪質だと、事業者名名指しでここに載ります。
リンク先には「特定商取引法違反被疑情報提供フォーム」という通報フォームまであります。


では改めて、どんな法律かというと……

特定商取引法は、事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。 具体的には、訪問販売や通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。

  特定商取引法ガイド 特定商取引法とは
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/  より引用 (2024/1/5現在)


どうやら消費者保護のために、事業者にいくらかの義務を課す法律のようですね。
対応が必要な内容も大まかに記載されています。

特定商取引法ガイド 特定商取引法とは
https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/ より引用 (2024/1/5現在)


事業者には、事業者名の表示や広告規制、重要事項などの告知義務、クーリングオフなどに対応するよう定められているようです。

対応すべき内容は販売方式によって異なるらしく、Boothに関連するのは「通信販売」のようです。

■「特定商取引法に基づく表記」とは


とはいえ、これだけ書いてあってもどんな対応をすればいいかわからないと思うので、一つずつ確実に、最低限必要な対応を行っていきましょう。

そう、勝手に…もとい、Boothの親切心により生成された「特定商取引法に基づく表記」の項目の調整です。

上記の通り、特商法には「広告」内で事業者名など、顧客に対して不利が無いよう、必要事項を告知する必要があります。
ここで言う「広告」とは、Boothの場合トレーラーやバナー広告などのことではなく、「販売ページ(ランディングページ)」のことだと思ってください。

表示事項についてはこちらに具体例が載っています。

Boothにはテンプレートが用意されていますので、シナリオや素材の頒布であれば表示箇所や形式をそこまで意識する必要はありません。特定商取引法に基づく表記の設定画面から必要な項目を埋めていきましょう。

①Booth名

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit   より引用 (2024/1/5現在)

こちらにはBoothのショップ名が表示されています。
別途デザイン編集ページで編集できますが、実は特商法上ではあまり意味のない項目かと思われるので、好きなものを設定して問題ありません。

②事業者の名称・連絡先

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit    より引用 (2024/1/5現在)

デフォルトでは「省略した記載については、電子メール等の請求により、遅滞なく開示いたします。」と書かれています。

特商法では、「事業者が自身の氏名(本名、または商号登記された称号)、住所、電話番号」を開示しなければなりません
ニックネームなどもNGです。

ただし、ネットショップなどでは利用者からの請求により遅滞なく開示(※一般的には1週間程度)することを条件に、一部表記を省略することができます。
そのためBoothではデフォルトでこの表記になっているのです。
もし可能であれば、最低限取引用のメールアドレスの表記は行っておきましょう。

これはあくまで「消費者が安心して商取引を行うための法律」です。
不当な個人情報の請求による悪用は懸念されるところであり、対策として消費者庁からは一部条件付きでプラットフォームの住所や電話番号で代替可能という見解が出ています。(※Boothは非対応)

トラブルや返品対応など、取引上必要な際はすぐに開示する必要がありますが、明らかにいたずらや個人情報収集目的と思われる問い合わせを受けた場合は、消費者庁や警察などにも相談しましょう。
特商法はすぐに刑事罰を受けるような性質の法律ではないので、事業者側がよほど悪質でなければ、即座に罰金や業務停止命令を受けることも稀と思われます。

私はいたずら防止のため、名称、連絡先については書面にて通知と定めています。
(ただし、この対応が正しいかは確認していないため、必要に応じて専門家にご確認ください)

③販売価格、商品代金以外の必要料金(配送料等)、代金の支払方法、代金の支払時期

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit    より引用 (2024/1/5現在)

代金についての項目です。
こちらについては、Boothプラットフォーム内の機能を使うことになるため、ショップオーナー側で内容を調製する必要はありません。

④商品の引渡時期

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit    より引用 (2024/1/5現在)

ダウンロード販売の場合は意識する必要はありませんが、物理的な書籍やグッズなどを取り扱う場合は編集しておく必要があります。
デフォルトでは支払いから7日以内となっているので、ショップ基本設定から、自身の対応できる範囲の日程を設定しておきましょう。

⑤返品等についての特約に関する事項

Booth:ショップ情報編集 特定商取引法に基づく表記 https://manage.booth.pm/terms/edit    より引用 (2024/1/5現在)

そしてこちらが重要。返品特約です。

前回noteで「返金を求めるのは難しい」と書きながら「返金義務がある」というおかしな記述が含まれていたと思うのですが、大体この項目のせいです。

特定商取引法上ではクーリングオフ制度があり、一定の期間は消費者が契約を取り消し、返品する事ができるとされています。
しかしBoothを含む「通信販売」はちょっと例外で、なんとクーリングオフの対象外です。

ただし、商品を受け取った日から8日間は、契約の申込みの撤回や契約の解除を行うことができます。
……広告に返品についての特段の記載がない場合には

通信販売の場合、返品についての特約を記載していると、なんとこの契約の解除や撤回も行えないことにできます。

つまり、通販では「返品できない」と書いてあれば返品できません。

なんてルールだ…。
とはいえ、事業者側も「ガチャを引いたけれど気になったユニットが出なかったから返金したい」と言われたら困ってしまいますよね。

ただし、商品に瑕疵がある場合は例外となります。
いかに特約で、「返品に応じない」と書かれていようとも、商品自体に問題があった場合、業者は返品に応じる必要があるでしょう。


……という内容が盛り込まれた、デフォルトで入力されている文章が「商品に欠陥があり、当BOOTHが認める場合を除き、返品には応じません」です。
これに関しては、よほどのこだわりがない限り変更する必要はないかと思います。

なお、内容は明確である必要があります。
文言を調整したい場合、「返品したい場合相談に応じて対応します」といった曖昧な表記は不適切とされていますのでご注意ください。

特定商取引法ガイド 特定商取引法とは 通信販売広告について https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/advertising.html  より引用 (2024/1/5現在)


返品特約ついては消費者庁の以下の例も分かりやすいかと思います。

通信販売で商品を購入したが組み立てられないので返品したい。
https://www.no-trouble.caa.go.jp/case/mailorder/case01.html


Boothは利用規約では返品に応じる必要がある、とは書いているものの、「ショップオーナーは基本的には返品に応じる必要はない」というスタンスでテンプレートを作成しているように思えます。

消費者側はこの返品特約がある限り、「商品に瑕疵が無い限り、返金させることはできない」ことは良く覚えておきましょう。
Boothではほとんど返金はさせられません。
売買契約は売主と買主の契約なので、買主側=消費者も契約を行う自覚を持ち、きちんと理解する必要があるのです。


最後に「その他(資格・免許等)」の項目がありますが、ここは資格が必要な物品を販売する(古物商等)を想定していると思われますので説明は割愛します。

これでようやく、「特定商取引法に基づく表記」の対応が完了しました。
多くの人はテンプレートをほぼそのまま利用した形になったのではないかと思います。
しかし大切なのは、ここに書いてある内容を理解することで、自身が消費者とどのような契約を結んでいることになっているか知ることです。

なお、Boothが「事業者にしている」と書きましたが、特定商取引法ガイドにはこのような記載もあります。

「販売業者又は役務提供事業者」とは、販売又は役務の提供を業として営む者を意味します。業として営むとは、営利の意思を持って、反復継続して取引を行うことをいいます。なお、営利の意思の有無については、その者の意思にかかわらず、客観的に判断されることとなります。上記要件に該当すれば、個人でも特定商取引法上の「販売業者又は役務提供事業者」となります。

 特定商取引法ガイド 特定商取引法とは 通信販売 https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/  より引用

同人販売を「営利の意思を持って」と判断するかどうかは諸説あるようですが、少なくとも「反復継続して取引を行う」ことが客観的に営利とみなされる可能性はあります。
Boothでの販売は、特商法上でも「事業者」とみなされる可能性があると考えて利用したほうが良いかと思われます。

……ところで、ここでいう「事業者」とは「個人事業主」や「法人」とはほぼ関係ありません。
特商法は特商法として独立しており、事業者扱いされるから開業届を出さなければならない、というわけでもないようです。
法律、ややこしい……!

※繰り返しになりますが、これは個人で勉強した内容に基づいたものなので、内容が正しい保証はありません。詳しく知りたい方は消費者庁のホームページを見たり、専門家にご確認ください!



さて、今回は特商法について解説しましたが、実はここに記載した内容には特商法の「告示義務」程度しか含まれていません。

特商法には「誇大広告の禁止」なども含まれるのですが……
広告、広報には別の法律、「不当景品類及び不当表示防止法」も関わってきます。
ということで、次回は恐らく景品表示の話になるかと思います。


↓これまでの関連noteはこちら↓


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