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聖金曜日に思う、ウクライナと円安と

フィリピンはいま聖週間(Holy Week)の休日です。4月15日金曜日はグッドフライデーとよばれ、十字架にかけられ死んだキリストの受難に思いをよせる日とされています。フィリピンの多くのカトリック教徒の人たちが、Visita Iglesiaという習慣にのっとって、この木曜日と金曜日に、すくなくとも七つの教会をめぐるのだそうです。

コロナ禍で、2年間禁じられていたこの習慣が久しぶりに認められ、フィリピン大学構内の教会にもたくさんの人が来ていました。わたしはカトリック教徒ではありませんが、いろいろと祈りをささげたくなる昨今、大学の教会に足をはこんでみました。

UFOのような教会

マニラでは丸い宇宙船のような形の教会をたびたび目にします。南国らしい、とても開放的な空間で、どうぞおはいり、と言われているよう。じっと座ってみます。

いま私たちの罪に思いをいたすとしたら……。まず思うのはウクライナのこと。この間までごくごく普通の暮らしをしていた人たちが、無残に殺され、レイプされているという報道記事をきょうも読みました。神さま、いったい人間ってなんなんでしょう、何をやっているんでしょうね。

教会内部から出てくる人たち。家族で訪ねる人もたくさんいました

祈りをささげる人たちと座りながらもう一つ思ったこと。
それは円安についてでした。

1週間ほど前、外貨換金ショップの前を通って、表示を思わず二度見しました。1万円をフィリピンペソに換金したばあい4000ペソに満たない、3000ペソ台だと表示されていたのです。2016年からたびたびフィリピンを訪ねてきましたが、この安さは初めて。旅の途中でもあり「見まちがい?」と、自分が見たものをいったん否定してしまいました。

でも現実みたい。ニュースでも、円が約20年ぶりの安値になり、ウクライナへの侵攻で経済制裁を受けているロシア通貨ルーブルと並ぶほど売られまくっている、と報じています。成長しない日本の「円」はもういらないというのです。

ウェブで見ると日本円のレートは1フィリピンペソ=2.4円ほど。習慣で100ペソのものはだいたい200円ちょっと、というように2倍ほどで計算していましたが、2.4倍ほどで考えないといけません。3月15日のレートが2.24円とあるので、さらに下がっているのがわかります。

誘惑にまけた……おいしいラーメンも1000円以上

フィリピンの物価は決して安くありません。1ペソ2.4円で計算すると、うっかりなくしてしまった折りたたみ傘をスーパーで買ったら500ペソ(1200円)。空港からのタクシー750ペソ(1800円)。寒くて買ったしょぼいパーカーが899ペソ(2158円)。誘惑に負けて食べたラーメン435ペソ(1044円)って、めちゃくちゃ高い!!原油高もあってか、Grabタクシーもだいぶ値上がりしています。近場の移動はジープニーとバスにしないと。

神さまの前で思いました。この円安に罪があるとしたら、こうなると分かっていたのに、日本がずっと直視してこなかったことではないかと。魅力のあるものづくりも、昔ほどにはニーズにマッチできていない。人口も減って国内市場はちいさくなっている。国力が落ち続けても、移民の受け入れや性別による差別的なあつかいはなかなか変わらないなど、日本のおくれっぷりを、特に海外と日本を行き来している人たちは痛感してきました。

日本の食品もたくさん売られています

ハノイに住んでいたころ、ベトナム人の友人は、子どもを欧州の大学になんとか入れようと教育ママっぷりを発揮していました。「子どもを海外で就職させ、安心して生涯暮らせるようにしたい」と話していたのです。小学生の子どもがいる私は激しく共感しました。過去の栄光に酔って、やらなきゃいけないことを何もできない日本から、子どもを脱出させなければ、と。でもその友人は笑って言いました、「日本は大丈夫でしょ」と。

日本の名を冠した店や商品も多い

東南アジアにいると、日本製品や日本という国への信頼みたいなものが、まだかすかに残っているのを感じます。数年前にマニラの空港でシムカードを売る若い男性にパスポートを出したら、「あなたの国を尊敬しています」と言われ、恥ずかしさにぶんぶん手をふって後ずさりしてしまいました。

「日本に行きたいけど物が高いから行けないよ」と言う人も多くいますが、実際の日本は、あるていど質のよいものがどこよりも激安で売っている。優しい周辺の国々の人が言ってくれる「すごい。尊敬する。大丈夫」は、本当に現実をうつしたイメージか。全然違うと思います。

Relish groupという会社がやっている日本風パンのお店

では、私たちはどんどん落ちぶれていくしかないのでしょうか。それではつまらない。今回のひどい円安は、くるぞくるぞと思っていたパッキャオの強烈な左フックをボッカーンと食らって、ぶっ倒れたようなもの。「いやいや実は日本は大丈夫」と逃げず、まずはこのパンチを「危機」として、しっかり味わわないといけないと思います。どう立ち上がり、立て直すのか。現実を直視しない政治家に「いらない」をつきつけ、動ける人に替えていくこと。それをしなければ、泥舟はぶくぶくと沈んでいく。

罪はゆるされるでしょうか……ああ神さま。


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