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歩行時につまづくEさんの「意外な原因」と、「意外な治療法」とは?

読んでいただく際の注意:
今回は歩くときに躓(つまづ)きやすい人の治療の報告ですが、
全ての躓きやすい方の問題解決方法」
では全くありません。

ヒトの症状の原因は多岐にわたり、
治療方法はオーダーメイドであるべきです。
「へぇ、そういう考え方もあるんだね」
という感じで、ひとつの参考情報として呼んでいただけたら幸いです。


さて今回は、
入院生活後、歩くときに左足が躓きやすくなってしまったEさん
の治療経験を元に、

  • 歩くときに足が躓(つまづ)くことが増えてきている。

  • 躓かないように足を上げるように歩いているが、不自然な歩きで疲れやすい。

  • 足を前に出す筋肉を鍛えているが、躓きやすさが変わらないと感じている。

というあなたに向けて、治療家(整体師・理学療法士・物理学修士)の立場でお話をしようと思います。
よろしくお願いいたします。


2か月の入院生活でEさんは躓きやすく


Eさんはコロ○の関係で予定より長い入院生活に

Eさんは、80歳台後半というご年齢ですが、頭もしっかりされて大変お元気な方です。
10年ほど前に軽い脳梗塞となり、左半身にごく軽い麻痺がありますが、屋外での肉体労働も難なくこなされます。
今の政治についてのご意見もしっかり持っておられ、時々ニュースを見て文句・・・失礼、ご意見を言っておられます。

「次の選挙でEさんが立候補できるように、体仕上げておきますね」
と私が冗談を言うと、
「バカ!俺はもう引退。ご隠居さん。あんたら若いもんががんばれや(がんばりなさいよ)」
と返されますが、全然ご隠居さんな感じがしないお元気なEさんです。

そんなEさんが、少し持病が悪化してしまったため入院することとなりました。
予定では「4週間(1か月)程度」との情報。
経過もご高齢のわりに比較的順調とのことで、
「さすがEさん!」とスタッフ皆で安堵していました。

しかし、入院されている病院で例のコロ○が発生。
他にもいろいろな事情が重なり、結局入院期間は予定よりも長い
2か月となってしまいました。
しかも、感染拡大防止のため、病室から出られない状態での入院期間延長です。

さすがのEさんも、筋力体力の低下があり、
「疲れやすく、動作も不安定です」
という情報。
介護度も、「要支援2」だったものが、今回「要介護3」となっていました。

退院後久しぶりにお会いするEさんは、すっかりお痩せになって、
眼だけがぎょろぎょろしているような表情でした。
また、少しだけ認知症かな?という印象を持つような発言も聞かれるようになっていました。

Eさんは麻痺のある左足が躓きやすくなっていました

退院後は生活援助の方針は、
介護保険サービスで、私達のリハビリを受ける機会を増やし、
自宅での生活の援助をしながら、
ご本人が可能な活動を少しずつ行っていきましょう。

そんなアプローチで関わり、Eさんご自身のガンバリもあり、
徐々に元気さを取り戻していかれました。

生活も元通りとはいきませんが、自宅での生活は概ね自立。
体力も、筋力も同時進行で回復していきました。

しかし、Eさんが歩いていると

左足が時々躓く

ことが問題となってきました。

AIさんに描いてもらいました。歩行器がなんか変(笑)

車いすで移動する機会が減り、
歩行することが増えてきたことで、
この問題が表面化してきました。

リハビリの時には、
Eさんも意識しているためか躓きはほとんどみられていなかったのですが、日常の歩行時に躓くことがたまにあるようでした。

躓いて、転倒して、ケガをしたらまた入院となるかもしれません。

「麻痺があるから、筋力が付きづらくて、躓くんじゃない?」
と言う介護スタッフもいましたが、それであれば、
もう少し歩行は左足が重いような、
引きづるような、
歩行になるはずです。
その時のEさんの左足は、入院前とほとんど変わらないレベルで前へ振り出されていました。

Eさんも、
「左足が重いのは入院しているときはあったが、
今は歩いていても
重くはない。
ただ、なんでだか時々躓くんだ」
という感覚をお持ちでした。

もちろん、麻痺が悪化しているわけではありません。
筋力も体力も原因としては弱そうです。

では何が原因なのでしょうか・・・?


Eさんへの治療の自己調整バージョン(動画)

「まずは試してみよう」と行っていただいて結構ですよ。
ただし、
強い痛みを感じたり、不快感を感じたりしたらすぐに中止
しくださいね。

・足裏全体のマッサージ

https://youtu.be/tZ1NUlWmumM

・足首の前のマッサージ

https://youtu.be/IzG7mVmBh70

・ふくらはぎの筋肉のマッサージ

https://youtu.be/kolCS3l1Fpc

やっていることは意外と簡単ですよね?
でも、これを、私はEさんの
「右足」
に行ったのです。

なぜなのでしょうか?

以下にその理由を記載します。
何事もそうですが、原理原則を理解して行うと効果が倍増します。



「歩く」とは「足を前に出す」動作なのでしょうか?

「足が出ない」ことが問題なのでしょうか?

「左足が躓くなら、左足が悪い。左足に原因がある」
「だから、左足を筋トレすれば治る」

という一般的な考え方の根幹にあるものは何でしょうか?

私は、

「歩くとは、足を前に出すこと」

という認識だと思います。

私は、治療家としてこの認識に大変大きな疑問を持っています。

例えば、「足を高く上げる」エクササイズ。

これが無駄だとは思っていませんが、果たしてこれは歩いているときに足を前に出す「腸腰筋」を鍛えているのでしょうか?
もしも、そうであれば、世の中の腰痛の大部分は、足を高く上げる足踏み体操で解決できるはずです。

大股歩きで、踵から接地するエクササイズも同様です。

本当に私たちは歩くときに、踵から接地をしないといけないのでしょうか?
それほど、足を大きく前に出す必要があるのでしょうか?

極端な例ですが、
日本の隣の某国の軍事演習パレードでの兵士の歩き方
を目指しているように思えてしまいます。

画像リンク先より引用

一般的な歩行方法についての考察はまた別の機会に譲りますが、
単純に物理学的に見ても、
「運動量保存則」
もしくは「角運動量保存則」
という物理学の初歩の法則から

  • 足を大きく前に出す ⇒ 重心は後ろへ移動させられてしまう

  • 踵から接地する ⇒ 膝関節は逆に曲がる方向へ負担がかかってしまう。つまり膝を痛める。

  • 左右の腕を大きく振る ⇒ 腕や体幹の前方への推進に寄与できない

を説明することは容易です。

重心を前に出す、前方へ推進する、という観点から見ると、
この一般的な歩行方法は

大変効率が悪い

ものです。
(早く疲れてダイエットしたいのなら最適な歩行なのかもしれませんが…)


私の歩行に関する持論は

人間はいろいろな歩き方ができた方が良い
歩き方に個性があって良い

ですが・・・

一般的に正しいとされる歩行に固執することは、注意が必要ですよ」

とお伝えし続けています。


私が歩行時に左右どちらかの足に痛みなどの問題を抱えている方に出会ったときには、

「大丈夫な方の足」

を評価することも重視しています(結局全身を評価するのですが)。

Eさんの場合も、躓くのは左足ですので、
右足
に何か問題が無いのかを、注意深く評価する必要があるのです。


左足を前に出すときには、右足は何をしているのでしょうか?

引用元は画像リンク先より

上の図はあるいくつかのサイトで使われている画像です。
ここでは、
「足を支える足にもいろいろな筋肉が働いているんだな。」
という印象を持っていいただくだけで結構です。

(教科書的には上の図は正しいのは当然なのですが、そもそもこの歩行自体を私は推奨しないのでこの図の詳しい解説は控えます。)

こまかい理論の違いはありますが、
大事なポイントは、左足を前に出すときには右足は

  • 体重を支え

  • 微妙なバランスを保ち

  • 前方への推進力を生みだす

という重要な働きをしているということです。

さらに、支えの働きをしていた右足は、
十分な筋肉と
運動神経・感覚神経
の活動により
次の振り出し動作をスムーズに行うことができるのです。

「スムーズに足を前に出す」ことと
「その前に十分に体重を支持する」こととは
実はつながっていた

のですね。

もっと言えば

「体重をしっかり、柔軟に支えられた足は、その後は勝手にスムーズに前に出る!」

とやや乱暴に私は認識しています。

解説が長くなりましたが、これらの理由から、
Eさんの左足が躓くのは、
事前に左足が十分に体重を支えることができないからではないか?
それは、左足自体の問題ではなく、左足が接地できる時間が短いことが原因ではないか?
つまり、右足に問題があるのでは?

と仮説を立てるのです。


【補足】
「今回の明初庵は、理論の背景・根拠となるサイトの引用が少ないな?」
と思われたかもしれません。
すみません、その通りです。
私のこのような考え方は、大きく
ボバースコンセプト
という治療理論の影響を受けています(現在は少し距離をとっています)。

この治療理論を元にした治療は一部の治療家しかできません
(向き不向きがあるのです)。

治療効果はかなり高い反面、かなり専門的な理論です。
そのため、一般の方向けのサイトでは私は見つけることができませんでした。ですので、情報の元ネタが少ないのです。スミマセン。


Eさんの歩行改善治療

Eさんはなぜ躓きやすくなったのでしょうか?

まず一番大きな原因は、予定より長く・不活発(非活動的)な入院生活です。

筋力と体力、さらに認知機能が低下するだけでなく、
関節が硬くなるリスクがあります。

一般的には以下の場所に関節拘縮リスクがあるとされます

体幹・頚部・股関節・足関節・手関節・肩関節・肘関節・膝関節

Eさんに影響がみられたは、
足関節
でした。

一般的に「足を上げる」「つま先を上げる」という背屈の動きがしづらくなっていました。

正確には足の関節の動く範囲(可動域)は測定すると正常なのですが、
背屈の動きがスムーズにできない「硬さ」がありました。


躓く理由はつまりこうです。

右足をついて、左足を前に出そうとしますが、
右足首は、十分に背屈をすることができません。
これは、右足に体重を乗せている時間が、

ほんの少し短くなってしまう

ことを意味します。

試みに、あなたも右足だけ踵を付けないように歩いてみてください。
自然に右足をついている時間、つまり左足を前に出す時間が短くなりませんか?

それでも、右足で踏ん張る時間を長くするために筋肉をたくさん使えば、左足を前に出す時間は確保できます。

ですが、毎回毎回。そのようなことはできません。
床、地面のちょっとした条件の変化もあります。

そんな時にEさんの左足は、
「なぜか、時どき躓く」
という現象が起きていたのでしょう。


このような仮説が立てられたら、治療を行って、その後の変化を観察するだけです!


再掲:Eさんへの治療の自己調整バージョン(動画)

もう一度治療動画を載せますが、
お気づきの様に、なんでもないマッサージです(笑)

でも、治療対象者の問題の

「本当の原因」
がわかってしまえば、
実は治療テクニックというのは難しくなくても良い

のです。

無理をしないで、痛くないように行ってくださいね。

・足裏全体のマッサージ

https://youtu.be/tZ1NUlWmumM

・足首の前のマッサージ

https://youtu.be/IzG7mVmBh70

・ふくらはぎの筋肉のマッサージ

https://youtu.be/kolCS3l1Fpc


その後のEさん

Eさんの躓きは、私も驚くほど減少しました。

自宅の中で、少しつかまるものがある環境では、歩行器無しで歩く場面も目にするくらいです。
もちろん、「まだ早いです」と厳重注意は致しましたが(笑)

「あ、ごめんごめん。でも最近歩きやすくなったよ。」
とのご返答。
「ごめんごめん」にはあまり気持ちが籠っていないことは気になりますが、歩きやすくなったのは治療家冥利に尽きますね。

早くに仲の良かった奥さんを無くされたEさん。
最近は、台所でお米を炊いたり、お皿を洗ったりといった炊事も再開できるようになり、息子さんなどご家族も喜ばれています。

今現在もリハビリは継続されています。
いろいろな持病をお持ちのEさんです。
また、入院するなど体調不良とならないよう、
私たちもお支えしていきたいと思います。



最後に

最後にまとめをさせていただきます。

歩行時に躓く問題の解決を通して以下の点がいえると考えます。

  • 一般的な考え方やエクササイズでは解決できない場合があります。

  • 反対の足にも注意深く評価する必要があります。全身を評価できるのが最良です。

  • 的確な問題点を見つければ、簡単な治療法で解決できる可能性があります。


お話は以上です
最後までお読みいただきありがとうございます

私は文章にするのが苦手ですが、
できるだけ伝えたいことを書いてみました。
もし間違いや不明な点がありましたら、
ぜひコメントやメールで教えてください。
喜んで加筆修正いたします。

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